[No.1] (昼休みも中頃、会計室前の廊下で一人奮闘―) 名前:潮江文次郎
(昼休みは会計室で作業片手にゆっくり食事を取る事が多いのだが、珍しく教室で昼食を取れば、真面目によく噛んでから飲み込む、なんて食べ方をしている潮江は作業をしていなくとも他よりも少し遅い食事速度となるのか。ふと、弁当のきんぴら牛蒡を箸で摘んだ所で、潮江よりも先に食べ終えた友人が席を立った。視線を上げて「どこへ行くんだ」と何気なく問うてみれば、委員会室だと返答がくるのだから、全く委員会好きの者が多いと感心してしまうのだけれど。とは言え食事を終えた潮江も、その言葉を聞いてか同じ様に会計室へと向かうのだから、人の事は思えないだろうか。始めは作業効率を上げる為に通い始めた会計室ではあったが、居慣れた会計室は随分心地のいい場所となっていて、気が付けば足が向いてしまうものであり、―慣れた足取りで会計室まで来れば、鍵を回して扉を開け―ようとしたものの、がたっ、と揺れはするし微かな隙間は出来たのに、扉は開かない。)ちぃっ、またか…。(ここの所立て付けが悪いとは思っていたが、潮江が詰まる様子では中等部の委員には厄介だろう、なんて考えつつ、もう一度扉を引く。少しの変化は見えたものの、無理矢理こじ開けて壊しても―なんてこういった時に珍しく冷静な思考が働くのは、予算会議も近い今、元から立て付けが悪かっただけなら兎も角として、下手に壊して、犬猿の仲と言える同級生が委員長を勤める用具委員に、借りを作る訳にはいかないとの考え故か。何か引っかかっているのだろうかと、片手を扉についてしゃがみ込めば、廊下の途中、どうかしたのかとちらちら通り過ぎる生徒の視線を浴びる程には、変わった光景で―、)
(昼休みは会計室で作業片手にゆっくり食事を取る事が多いのだが、珍しく教室で昼食を取れば、真面目によく噛んでから飲み込む、なんて食べ方をしている潮江は作業をしていなくとも他よりも少し遅い食事速度となるのか。ふと、弁当のきんぴら牛蒡を箸で摘んだ所で、潮江よりも先に食べ終えた友人が席を立った。視線を上げて「どこへ行くんだ」と何気なく問うてみれば、委員会室だと返答がくるのだから、全く委員会好きの者が多いと感心してしまうのだけれど。とは言え食事を終えた潮江も、その言葉を聞いてか同じ様に会計室へと向かうのだから、人の事は思えないだろうか。始めは作業効率を上げる為に通い始めた会計室ではあったが、居慣れた会計室は随分心地のいい場所となっていて、気が付けば足が向いてしまうものであり、―慣れた足取りで会計室まで来れば、鍵を回して扉を開け―ようとしたものの、がたっ、と揺れはするし微かな隙間は出来たのに、扉は開かない。)ちぃっ、またか…。(ここの所立て付けが悪いとは思っていたが、潮江が詰まる様子では中等部の委員には厄介だろう、なんて考えつつ、もう一度扉を引く。少しの変化は見えたものの、無理矢理こじ開けて壊しても―なんてこういった時に珍しく冷静な思考が働くのは、予算会議も近い今、元から立て付けが悪かっただけなら兎も角として、下手に壊して、犬猿の仲と言える同級生が委員長を勤める用具委員に、借りを作る訳にはいかないとの考え故か。何か引っかかっているのだろうかと、片手を扉についてしゃがみ込めば、廊下の途中、どうかしたのかとちらちら通り過ぎる生徒の視線を浴びる程には、変わった光景で―、)
[No.2] それ、鍛錬の為に重く開き難くしたんだとばっかり…違ったのね、 名前:芳川菜生
(今まで、自身が不運だと思ったことはない。六年間保健委員を務めることになっても皆優しいし楽しいのだと笑い、頻繁に浅い落とし穴に嵌まっても軽症で済んだからラッキーだと笑い、じゃんけんで負けて阿弥陀で貧乏籤を引いても今日はついていなかったと困ったように笑う。無理をしているのではなく、それもまた楽しい日常の一環だと思えるものだったから。―しかしその芳川も、今回ばかりは不運を嘆かずにはいられなかった。顧問から秘密裏に下された指令、その相手は、ラスボス級と言ってもいい会計委員長その人で。自分で言うのもなんだが、己が彼の弱みを握れるくらいならとっくに会計委員は攻略されているだろうに、と思う胸中は正に真理であり、けれど役立ちたい一心で引き受けてしまった今、撤回など出来ようもない。同クラスである事だけは不幸中の幸いか――今日も今日とて出来得る限りで調査に励まんと、昼食を食べ終えた彼が席を立ったのに、力作のお弁当の半分を泣く泣く残して「ちょっと委員会室行ってくる!」と友人達に向けて密かに後を追おう。しかし既に廊下に探し人の姿はなく―普段この時間は会計室にいることが多い、その情報に賭けて向かった芳川の推論は、結果から言うと当たってはいたものの、)っ…、……?(急いで曲がり角に引っ込み、そこから目的地の扉を窺う。―過ぎ行く人々の注目を集めているのは、紛れもなく扉の前でしゃがんでいる同級生。暫く観察してみるも、此処からでは何をしているのか分からずに埒が明かなくて。意を決して人波に紛れ、会計室を通る瞬間横目で見つつ次の角を曲がり、往復。傍から見ると限りなく不審者に相違ない彼女はその時、何が脳裏に過ぎったのか―きゅっと口元を引き締めたなら今度こそ目的地で止まり、彼の隣で同じようにしゃがむのだ。)どうしたの、潮江くん、…お金落とした?(脳裏に閃いた映像は、つい先日、保健室の前で財布を落として小銭をばら撒いた後輩委員の姿である。見当外れ且つ、相手が真相を知ったなら心外であろうその連想でも、至って真剣な心配でありもしない小銭を探す心積もりの芳川、―不測の事態に早くも目的を忘れているのだから、顧問も人選を誤ったに違いない。)
(今まで、自身が不運だと思ったことはない。六年間保健委員を務めることになっても皆優しいし楽しいのだと笑い、頻繁に浅い落とし穴に嵌まっても軽症で済んだからラッキーだと笑い、じゃんけんで負けて阿弥陀で貧乏籤を引いても今日はついていなかったと困ったように笑う。無理をしているのではなく、それもまた楽しい日常の一環だと思えるものだったから。―しかしその芳川も、今回ばかりは不運を嘆かずにはいられなかった。顧問から秘密裏に下された指令、その相手は、ラスボス級と言ってもいい会計委員長その人で。自分で言うのもなんだが、己が彼の弱みを握れるくらいならとっくに会計委員は攻略されているだろうに、と思う胸中は正に真理であり、けれど役立ちたい一心で引き受けてしまった今、撤回など出来ようもない。同クラスである事だけは不幸中の幸いか――今日も今日とて出来得る限りで調査に励まんと、昼食を食べ終えた彼が席を立ったのに、力作のお弁当の半分を泣く泣く残して「ちょっと委員会室行ってくる!」と友人達に向けて密かに後を追おう。しかし既に廊下に探し人の姿はなく―普段この時間は会計室にいることが多い、その情報に賭けて向かった芳川の推論は、結果から言うと当たってはいたものの、)っ…、……?(急いで曲がり角に引っ込み、そこから目的地の扉を窺う。―過ぎ行く人々の注目を集めているのは、紛れもなく扉の前でしゃがんでいる同級生。暫く観察してみるも、此処からでは何をしているのか分からずに埒が明かなくて。意を決して人波に紛れ、会計室を通る瞬間横目で見つつ次の角を曲がり、往復。傍から見ると限りなく不審者に相違ない彼女はその時、何が脳裏に過ぎったのか―きゅっと口元を引き締めたなら今度こそ目的地で止まり、彼の隣で同じようにしゃがむのだ。)どうしたの、潮江くん、…お金落とした?(脳裏に閃いた映像は、つい先日、保健室の前で財布を落として小銭をばら撒いた後輩委員の姿である。見当外れ且つ、相手が真相を知ったなら心外であろうその連想でも、至って真剣な心配でありもしない小銭を探す心積もりの芳川、―不測の事態に早くも目的を忘れているのだから、顧問も人選を誤ったに違いない。)
[No.5] なるほど。そう考えればこの扉も使えるな…。名案だぞ芳川。 名前:潮江文次郎
(しゃがみ込んでガタガタ扉を揺らし、状況を確認してみる。油を点せば滑らかになるものだろうか―何かが引っかかっているかどうかも外からでは分かりづらく、先日開きづらいと思った時に調べておくべきだったかと苦く眉根を寄せた。とりあえずは、見えないばかりでは動きづらい。一度開けきるのが一番だろう―と、一人考えていればふと近くで止まった気配に視線を移す。通行人にまで気を配っていなかったものの、隣にしゃがむ見慣れた顔に驚く事がないのは、やはり彼女がクラスメイトであって、話しかけられた事自体には何の違和感も抱かなかったからか。)金…?ああ、いや、物を落とした訳じゃない。こんな何もない所で取りこぼすような間抜けはせんさ。大した事ではないんだが…、(先程扉を調べながら、彼女が通り過ぎていったのを目の端に捉えた気がしたが、まさか自分を気に掛けて戻ってきたのだろうか―クラスメイトとして知る人となりだけでも、彼女ならば、不自然に見えたかもしれないその往復行為がおかしくないだろうそんな解釈が、出来てしまったから。つまりは現段階ではこの対話は、潮江にとってはただの偶然どころか、彼女の気遣いによって成り立っていると捉えられているのか。連想された姿などつゆ知らず―何故金限定なんだとは、思わなくはなかったけど―、彼女の足を止めさせた事に若干の申し訳なさすら抱けば、少し濁した言葉の続きを口に、)少し前まではこんな事はなかったんだが、この扉が―なかなか、っ…頑固者でな。へそを曲げられて困っていたところだ。(ぐっと扉に手を掛けて実戦してみれば、やれやれと肩を竦めた。「恐らくすぐに開く」なんて、心配させまいと苦笑を浮かべつつ、空いた手でひらりと空を切って、)
(しゃがみ込んでガタガタ扉を揺らし、状況を確認してみる。油を点せば滑らかになるものだろうか―何かが引っかかっているかどうかも外からでは分かりづらく、先日開きづらいと思った時に調べておくべきだったかと苦く眉根を寄せた。とりあえずは、見えないばかりでは動きづらい。一度開けきるのが一番だろう―と、一人考えていればふと近くで止まった気配に視線を移す。通行人にまで気を配っていなかったものの、隣にしゃがむ見慣れた顔に驚く事がないのは、やはり彼女がクラスメイトであって、話しかけられた事自体には何の違和感も抱かなかったからか。)金…?ああ、いや、物を落とした訳じゃない。こんな何もない所で取りこぼすような間抜けはせんさ。大した事ではないんだが…、(先程扉を調べながら、彼女が通り過ぎていったのを目の端に捉えた気がしたが、まさか自分を気に掛けて戻ってきたのだろうか―クラスメイトとして知る人となりだけでも、彼女ならば、不自然に見えたかもしれないその往復行為がおかしくないだろうそんな解釈が、出来てしまったから。つまりは現段階ではこの対話は、潮江にとってはただの偶然どころか、彼女の気遣いによって成り立っていると捉えられているのか。連想された姿などつゆ知らず―何故金限定なんだとは、思わなくはなかったけど―、彼女の足を止めさせた事に若干の申し訳なさすら抱けば、少し濁した言葉の続きを口に、)少し前まではこんな事はなかったんだが、この扉が―なかなか、っ…頑固者でな。へそを曲げられて困っていたところだ。(ぐっと扉に手を掛けて実戦してみれば、やれやれと肩を竦めた。「恐らくすぐに開く」なんて、心配させまいと苦笑を浮かべつつ、空いた手でひらりと空を切って、)
[No.6] えっ…、や、その使い方はちょっと…!開け易さ重視、大事だよ? 名前:芳川菜生
(地獄の会計委員長。大層な通り名に相応しい噂は耳にしている―噂と言っても委員本人の口から聞く真実だ、勿論―とは言え、委員の異なる芳川にとってはクラスメイトの彼の方が馴染み深いもので。不撓不屈の努力家には純粋に敬意を覚えるし、正直という面での誠実さは人として好ましいものだ。しかも六年間も同じクラスでやって来たのだから恐がる理由もない―そんな前提があるからこそ、スパイを決行している彼女の腰の引けようも相当のものだと言えるのだろうけれど。しかし今はそれも隅の隅に追いやられていて、意識は隣の彼へと。)あれ、違ったの?てっきり…、………、そうだね、潮江くんだもの。確かにそんな光景、シャッターチャンスを狙いたいくらいレアになっちゃう。(その間の抜けた行為を踏んだ後輩に手を貸し、あまつさえよくある事だと言う台詞に彼女自身した事はなくとも納得しただけに、何とも言えぬ感情が不自然にならない程度の沈黙を生んだよう。それも直ぐに立て直して仮定の図を思い描けば、なるほど彼には似合わない光景になりそうで、相手の申し訳なさなんて汲み取れずに笑みに頬緩ませた。間を置かれての説明は納得して然るべきもの―少なくとも己の予想よりは遥かにそれらしい事情に、視線は彼から目の前の扉へと動いて、)わあ、それはまた…随分手のかかる問題児だねえ。会計室はお金の事で他の委員の出入りも多いから、おかしくなる事もあるかもしれないけど―、(案じさせまいとする言葉を聞きつつ首を傾いだ芳川は直後、ぱっと輝かせた顔で手を叩いて、「ちょっと待ってて、中から確認できるかも!」。名案とばかりに彼へと頷けば、返答を待たずに下にある小窓を一つずつ弄り、幸運にも開いたそこへと辛うじて通れる体で突っ込むのだ。掛けられた言葉に配慮が潜んでいると気付けなくとも、恐らくすぐに開く、が憶測でしかない事には気付けたから、―芳川に見つかったのが運の尽きだと思って諦めてもらうのが最良だ。元より事情を聞いてハイさようなら、なんて出来る性格では、ない。単に錆びかけているのなら未だしも、何かが突っかかっているのなら無理に抉じ開けたら悪化する可能性だってあるのだし、確認出来るならそれに越した事はないのだと―無事室内に潜入を果たした彼女は、スカートのプリーツと膝を叩いてから件の扉へ、)
(地獄の会計委員長。大層な通り名に相応しい噂は耳にしている―噂と言っても委員本人の口から聞く真実だ、勿論―とは言え、委員の異なる芳川にとってはクラスメイトの彼の方が馴染み深いもので。不撓不屈の努力家には純粋に敬意を覚えるし、正直という面での誠実さは人として好ましいものだ。しかも六年間も同じクラスでやって来たのだから恐がる理由もない―そんな前提があるからこそ、スパイを決行している彼女の腰の引けようも相当のものだと言えるのだろうけれど。しかし今はそれも隅の隅に追いやられていて、意識は隣の彼へと。)あれ、違ったの?てっきり…、………、そうだね、潮江くんだもの。確かにそんな光景、シャッターチャンスを狙いたいくらいレアになっちゃう。(その間の抜けた行為を踏んだ後輩に手を貸し、あまつさえよくある事だと言う台詞に彼女自身した事はなくとも納得しただけに、何とも言えぬ感情が不自然にならない程度の沈黙を生んだよう。それも直ぐに立て直して仮定の図を思い描けば、なるほど彼には似合わない光景になりそうで、相手の申し訳なさなんて汲み取れずに笑みに頬緩ませた。間を置かれての説明は納得して然るべきもの―少なくとも己の予想よりは遥かにそれらしい事情に、視線は彼から目の前の扉へと動いて、)わあ、それはまた…随分手のかかる問題児だねえ。会計室はお金の事で他の委員の出入りも多いから、おかしくなる事もあるかもしれないけど―、(案じさせまいとする言葉を聞きつつ首を傾いだ芳川は直後、ぱっと輝かせた顔で手を叩いて、「ちょっと待ってて、中から確認できるかも!」。名案とばかりに彼へと頷けば、返答を待たずに下にある小窓を一つずつ弄り、幸運にも開いたそこへと辛うじて通れる体で突っ込むのだ。掛けられた言葉に配慮が潜んでいると気付けなくとも、恐らくすぐに開く、が憶測でしかない事には気付けたから、―芳川に見つかったのが運の尽きだと思って諦めてもらうのが最良だ。元より事情を聞いてハイさようなら、なんて出来る性格では、ない。単に錆びかけているのなら未だしも、何かが突っかかっているのなら無理に抉じ開けたら悪化する可能性だってあるのだし、確認出来るならそれに越した事はないのだと―無事室内に潜入を果たした彼女は、スカートのプリーツと膝を叩いてから件の扉へ、)
[No.7] いいや。日々是精進。日常から努力を怠らん者が勝利を掴むんだ。 名前:潮江文次郎
(潮江が一人でいた時を考えれば、彼女が隣に並んだことは、傍目から随分不思議な光景だったものを、随分マシに映すようになっただろうか。少なくとも、何してるんだあの人、から、何かあったのかな、くらいには印象が変わるほど、彼女によって持ち込まれた和やかな空気は助けになっていたかもしれない。そんな中交わす言葉に、てっきり、だとか、潮江だから違う、という彼女の連想の断片が見えれば、潮江の中でも容易に繋がってしまうもので、)……保険委員会か。碌な目に遭ってねぇな、お前のところは。偶になら分からないでもないが…。(不意に連想に納得して、それでも同情していいものか迷ってしまう。不運だなんだと言われている彼女の所属する委員会に、不運が集まるなんて非論理的なと思わなくもないから、頻繁に不運な目に遭っている友人を思い出しつつも、ただの不注意だろうとの考えも拭えなくて。それに間違われたことには複雑な感情も芽生えかけたけど、それが彼女の日常と思えば何てこともない。この場に留まっていた理由を話してみれば、ぱちりと手を鳴らした彼女。何だと問いかけようと視線を移してみれば返されたその言葉。意図を掴みかねて、眉間に皺が寄った。)ちょっと待てって…、まさかそこから中に入るつもりか?確かに芳川ならまだ…―、…っ、ま、…っ!…〜〜、(開いた小窓は、自身には無理でも彼女なら通り抜けられろうだと、納得しながらも手間を掛けさせる訳にはと開口しようとしたけど、こちらの言葉も待たず行動を始めた彼女に圧され初めこそ様子を伺っていたものの、いとも容易く室内に体を滑り込ませていく彼女の体勢に気付けば、慌てて視線を逸らしつつ、文句の一つでもと零れ掛けた声も、一瞬のことでタイミングを逃してしまって。―気まずさを誤魔化すように咳払いを一つ。)…っ、すまんな芳川。中はどうだ?(こうなれば、もう彼女の手を借りた方が早い。平然を装いながら少し大き目に扉の向こうの彼女へと声を投げて――ちょうど扉が開くべき先は、資料の置かれた金属製の棚で封鎖されて見えにくくなっているのだけど、四本の足に板が並べられていくだけという簡単な造りの棚である故、隙間か最下段の資料を少し避ければその様子を伺えるはずで―その扉の行く手を遮っていたのは、丸め込まれたざら半紙か――)
(潮江が一人でいた時を考えれば、彼女が隣に並んだことは、傍目から随分不思議な光景だったものを、随分マシに映すようになっただろうか。少なくとも、何してるんだあの人、から、何かあったのかな、くらいには印象が変わるほど、彼女によって持ち込まれた和やかな空気は助けになっていたかもしれない。そんな中交わす言葉に、てっきり、だとか、潮江だから違う、という彼女の連想の断片が見えれば、潮江の中でも容易に繋がってしまうもので、)……保険委員会か。碌な目に遭ってねぇな、お前のところは。偶になら分からないでもないが…。(不意に連想に納得して、それでも同情していいものか迷ってしまう。不運だなんだと言われている彼女の所属する委員会に、不運が集まるなんて非論理的なと思わなくもないから、頻繁に不運な目に遭っている友人を思い出しつつも、ただの不注意だろうとの考えも拭えなくて。それに間違われたことには複雑な感情も芽生えかけたけど、それが彼女の日常と思えば何てこともない。この場に留まっていた理由を話してみれば、ぱちりと手を鳴らした彼女。何だと問いかけようと視線を移してみれば返されたその言葉。意図を掴みかねて、眉間に皺が寄った。)ちょっと待てって…、まさかそこから中に入るつもりか?確かに芳川ならまだ…―、…っ、ま、…っ!…〜〜、(開いた小窓は、自身には無理でも彼女なら通り抜けられろうだと、納得しながらも手間を掛けさせる訳にはと開口しようとしたけど、こちらの言葉も待たず行動を始めた彼女に圧され初めこそ様子を伺っていたものの、いとも容易く室内に体を滑り込ませていく彼女の体勢に気付けば、慌てて視線を逸らしつつ、文句の一つでもと零れ掛けた声も、一瞬のことでタイミングを逃してしまって。―気まずさを誤魔化すように咳払いを一つ。)…っ、すまんな芳川。中はどうだ?(こうなれば、もう彼女の手を借りた方が早い。平然を装いながら少し大き目に扉の向こうの彼女へと声を投げて――ちょうど扉が開くべき先は、資料の置かれた金属製の棚で封鎖されて見えにくくなっているのだけど、四本の足に板が並べられていくだけという簡単な造りの棚である故、隙間か最下段の資料を少し避ければその様子を伺えるはずで―その扉の行く手を遮っていたのは、丸め込まれたざら半紙か――)
[No.10] 説得力あるなあ。 ね、どうしても息抜きしたい時は何してるの? 名前:芳川菜生
(同情しているような、そうでないような。委員の名を言うごとに似た反応を受けてきているから、連想を当てられた事に若干驚きつつも、彼の言葉には慣れた笑みをはくだけだった。)わたしは慣れたから大丈夫―だけど、ちょっとあの子たちの将来が心配。皆の不運って相乗効果なんだもの。…保健委員の真価を知りたいなら一日体験をお勧めするけれど、(きっと潮江くんの性には合わないのよね。言う声が確信めいているのは、実力以前の問題であるそれが不注意では片付けきれない数々のシチュエーションでお目に掛かれるからで、実力主義で邁進している彼の道とは大分方向性が違う。貧乏籤を引きやすくとも他の同委員のようなスキルを持ってはいない芳川でさえ、仕事を一つするまでにハプニングが十待っているような環境に順応するのには時間を要したものだった。おかげで退屈しない放課後を過ごせる、と思えるからこそ六年間やってこれた訳で―前向きで、悩む暇があったら動いて、一つの事に向き合っている時はそれしか見えなくなるくらいに近視眼的で。長所とも短所とも言えぬその性根は、随分都合よく相手の制止を聞き流した。待てと言われれば任せてと拳を作り、気合い充分に小さな戸をくぐって、―床を這う体勢に構わなかったのは動きやすいように下にスパッツを穿いている他、女としての意識が低く、クラスメイトを異性として意識する理由がないからだ。この年でここまで惚れた腫れたの色気に疎く興味がないのも希少価値に近いけれど、取り敢えず彼が相手ならばお互い様だという事に出来るだろうから―本来なら一人会計室に乗り込めたまたとない機会であっても、彼や会計委員の弱みとなるところを探る本来の目的を忘れている今、壁を隔てたむこうの声に「んん、ちょっと待ってね、」と律儀に返事をして問題の扉を探る。移ろう視線がレール部分を行き来し、煩雑とまでいかなくても様々な資料が溢れている棚を何とかかんとか少し動かして、)…………あ!(止まった。―発見。挟まって滑りを悪くしていたくしゃくしゃの紙を唸りながら次々に引っこ抜き、一枚二枚ではないそのざら半紙を抱えて、扉を開こう。その先にいるはずの彼を見つければ、達成感に満ち溢れた相好に緩んで―)―昔の資料かな、結構落ちてたみたい。でももう大丈夫、だよ!……だいぶ汚れて皺くちゃになってるんだけどね、捨てないほうがいい?(幾ら汚れているとはいえ、彼等の所有する資料だ。抱えたそれを軽く持ち上げて高い位置にある頭を見上げて、―それを引き渡すかゴミ箱行きにするか、返答次第で任務完了の行動が変わるのだ。)
(同情しているような、そうでないような。委員の名を言うごとに似た反応を受けてきているから、連想を当てられた事に若干驚きつつも、彼の言葉には慣れた笑みをはくだけだった。)わたしは慣れたから大丈夫―だけど、ちょっとあの子たちの将来が心配。皆の不運って相乗効果なんだもの。…保健委員の真価を知りたいなら一日体験をお勧めするけれど、(きっと潮江くんの性には合わないのよね。言う声が確信めいているのは、実力以前の問題であるそれが不注意では片付けきれない数々のシチュエーションでお目に掛かれるからで、実力主義で邁進している彼の道とは大分方向性が違う。貧乏籤を引きやすくとも他の同委員のようなスキルを持ってはいない芳川でさえ、仕事を一つするまでにハプニングが十待っているような環境に順応するのには時間を要したものだった。おかげで退屈しない放課後を過ごせる、と思えるからこそ六年間やってこれた訳で―前向きで、悩む暇があったら動いて、一つの事に向き合っている時はそれしか見えなくなるくらいに近視眼的で。長所とも短所とも言えぬその性根は、随分都合よく相手の制止を聞き流した。待てと言われれば任せてと拳を作り、気合い充分に小さな戸をくぐって、―床を這う体勢に構わなかったのは動きやすいように下にスパッツを穿いている他、女としての意識が低く、クラスメイトを異性として意識する理由がないからだ。この年でここまで惚れた腫れたの色気に疎く興味がないのも希少価値に近いけれど、取り敢えず彼が相手ならばお互い様だという事に出来るだろうから―本来なら一人会計室に乗り込めたまたとない機会であっても、彼や会計委員の弱みとなるところを探る本来の目的を忘れている今、壁を隔てたむこうの声に「んん、ちょっと待ってね、」と律儀に返事をして問題の扉を探る。移ろう視線がレール部分を行き来し、煩雑とまでいかなくても様々な資料が溢れている棚を何とかかんとか少し動かして、)…………あ!(止まった。―発見。挟まって滑りを悪くしていたくしゃくしゃの紙を唸りながら次々に引っこ抜き、一枚二枚ではないそのざら半紙を抱えて、扉を開こう。その先にいるはずの彼を見つければ、達成感に満ち溢れた相好に緩んで―)―昔の資料かな、結構落ちてたみたい。でももう大丈夫、だよ!……だいぶ汚れて皺くちゃになってるんだけどね、捨てないほうがいい?(幾ら汚れているとはいえ、彼等の所有する資料だ。抱えたそれを軽く持ち上げて高い位置にある頭を見上げて、―それを引き渡すかゴミ箱行きにするか、返答次第で任務完了の行動が変わるのだ。)
[No.11] …?特に変わった事はしていないぞ。読書や運動を場合に応じ、だ 名前:潮江文次郎
……、伊作にも言えることだが、そんな事態慣れるものでもないだろうに。巻き込まれている時点で大丈夫とは言わんぞ。(友人の姿を思い浮かべつつ、彼女の言葉に呆れたように息を吐いて―それでも潮江なりに心配しているからこそ、ついつい口煩くなってしまう部分もあるのだが、「その甘さが不運に付け入る隙を与えてるんじゃないのか、」なんて辛辣にも聞こえる言葉は潮江が不運ではないからこそ口に出来るのだろうか。もちろん、保険委員会の持つ優しさは、美徳だと充分に理解しているけど。保険委員長である彼と親交があれば、潮江とて彼ら委員会が感じるその引力を少なからず体感している。一日体験などせずとも、寧ろ屈強に耐え抜く彼女らは充分前向きではないかと思わなくはないけど、ならば打ち勝てないのはおかしいだろう、と努力で補って更にそれ以上を目指してきた潮江には、納得出来ない部分であるから、潮江の性には合わないと零す彼女にだろうなと肯きながら、苦笑して。――すりガラス越しに動く影へと声を掛けながら、他の委員会所属の彼女を平然と会計室に入れていられるのは、裏があるなどと考えるまでもなく、自然な行いだと胸に落ち着くからで。油断大敵、と言葉通りそれが隙になっているようでもあるけど、成り立つ会話に含みはなく。現に何かを探る彼女の声は、原因を引き当てて―)!どうした芳川。何か見つかったか?(大き目に声を出しつつ、揺れる扉に合わせて、傾かせて何か分からない突っかかりを取る手助けをと扉を支えて―そうして、漸く開いた扉にほっと胸を撫で下ろしつつ、ざら半紙を抱えた彼女に視線を落とし、その原因に情けなさを抱いて眉間の皺を濃くして。)…ああ。手間を掛けさせたな。…そうだな……、いや、待てよ…。何の資料だ?資料の類はきちんとファイリングしてあったはずだが…、(彼女の問いに肯定の色を見せたなら、ふと、浮かんできた疑問に手を伸ばして、彼女の抱える一つを開いて見れば―)…………、っ……、…………、……捨ててしまって構わん。資料じゃない。(ぴくり、眉を動かして一度は沸点に近付いたその内容も、噴火するところまではいかず、たっぷり押し黙った末に、ぐしゃり、半紙を潰してしまいつつ呆れた溜息すら零れる。その内容は――汚れによって随分古くも見えたが、そこに書かれているのが、ミミズの走ったような暗号―後輩の手によって連ねられた、練習の成果だと分かれば、恐らくそれが潜り込んだのはそう遠くない頃だと思う―それが癇癪を起こした潮江の手によるものだということは都合よく忘れたままだけど―。怒りを通り越して気疲れさえ浮かぶのは、その点と線が、精一杯書かれたものだと、知っているからで。彼女の前でそんな委員会の内情を取り繕うことも忘れ皺を心持ち直しながら、「こんなもの他の委員会に知れては敵わん」なんて内心の複雑さをぼやいて、)
……、伊作にも言えることだが、そんな事態慣れるものでもないだろうに。巻き込まれている時点で大丈夫とは言わんぞ。(友人の姿を思い浮かべつつ、彼女の言葉に呆れたように息を吐いて―それでも潮江なりに心配しているからこそ、ついつい口煩くなってしまう部分もあるのだが、「その甘さが不運に付け入る隙を与えてるんじゃないのか、」なんて辛辣にも聞こえる言葉は潮江が不運ではないからこそ口に出来るのだろうか。もちろん、保険委員会の持つ優しさは、美徳だと充分に理解しているけど。保険委員長である彼と親交があれば、潮江とて彼ら委員会が感じるその引力を少なからず体感している。一日体験などせずとも、寧ろ屈強に耐え抜く彼女らは充分前向きではないかと思わなくはないけど、ならば打ち勝てないのはおかしいだろう、と努力で補って更にそれ以上を目指してきた潮江には、納得出来ない部分であるから、潮江の性には合わないと零す彼女にだろうなと肯きながら、苦笑して。――すりガラス越しに動く影へと声を掛けながら、他の委員会所属の彼女を平然と会計室に入れていられるのは、裏があるなどと考えるまでもなく、自然な行いだと胸に落ち着くからで。油断大敵、と言葉通りそれが隙になっているようでもあるけど、成り立つ会話に含みはなく。現に何かを探る彼女の声は、原因を引き当てて―)!どうした芳川。何か見つかったか?(大き目に声を出しつつ、揺れる扉に合わせて、傾かせて何か分からない突っかかりを取る手助けをと扉を支えて―そうして、漸く開いた扉にほっと胸を撫で下ろしつつ、ざら半紙を抱えた彼女に視線を落とし、その原因に情けなさを抱いて眉間の皺を濃くして。)…ああ。手間を掛けさせたな。…そうだな……、いや、待てよ…。何の資料だ?資料の類はきちんとファイリングしてあったはずだが…、(彼女の問いに肯定の色を見せたなら、ふと、浮かんできた疑問に手を伸ばして、彼女の抱える一つを開いて見れば―)…………、っ……、…………、……捨ててしまって構わん。資料じゃない。(ぴくり、眉を動かして一度は沸点に近付いたその内容も、噴火するところまではいかず、たっぷり押し黙った末に、ぐしゃり、半紙を潰してしまいつつ呆れた溜息すら零れる。その内容は――汚れによって随分古くも見えたが、そこに書かれているのが、ミミズの走ったような暗号―後輩の手によって連ねられた、練習の成果だと分かれば、恐らくそれが潜り込んだのはそう遠くない頃だと思う―それが癇癪を起こした潮江の手によるものだということは都合よく忘れたままだけど―。怒りを通り越して気疲れさえ浮かぶのは、その点と線が、精一杯書かれたものだと、知っているからで。彼女の前でそんな委員会の内情を取り繕うことも忘れ皺を心持ち直しながら、「こんなもの他の委員会に知れては敵わん」なんて内心の複雑さをぼやいて、)
[No.12] あはは、納得。一服してだらっと休憩ー、な姿想像できなくって。 名前:芳川菜生
(呆れた声音に、巻き込まれるのは保健委員になった時から諦めてる、と肩を竦めて。委員メンバーと行動を共にする事で逃れられない現実を寛容しているのは、今の彼に限った事ではなく友人からも度々指摘が入るのだが、然し他に対処のしようがないというのも事実。六年間ジャンケンで負け続けて所属しているとはいえ、距離を取って彼等の不運から逃げる程薄情でもないつもりだ。直後の苦い忠告を額面通り受け取ったなら、多少なりとも自覚があるが故にご尤もと眉尻を下げて頷いた後、何を閃いたかぱっと変わった顔色―そこに暗い陰がないのは前向きなのか何なのか、)ああでも、たまには厳しくいくのも手かも。注意力強化週間とか作ったりして!……ただ、うちの委員長、なにもしてなくても周りのトラブル引っ張ってくる体質なのが難点というか……ある意味奇跡の存在なんだよねえ。でもいざって時には頼りになるし、憎めないのが人徳なのかな。(周りを巻き込みつつ巻き込まれつつ、けれど笑顔は絶えず。その我らが委員長と眼前の彼の仲がそういえば睦まじいのを思い出しつつ、脳裏に過ぎったもう一つの光景に飛び出た呑気な言葉は―「潮江くんも後輩に懐かれてるよね。いいお兄ちゃんに見える…、と言うよりは、一家の大黒柱みたい?」と。嘗て目撃した、一年生の会計委員が六年い組にやって来て彼と話していた様子は芳川の目には大層親しげに映ったので、悪気なく感じた儘に言った結果がそれだ。老けていると言いたいのではなく、それ程に貫禄があるように思うと込めた意味はさて、正しく伝わるといいのだけれど―。――開いた扉の向こうで相手が安堵した事に眦を和ませつつ、眉宇の皺が増えた反応には”らしい”なあ と思ってしまうのだ。ついついその皺を伸ばしてやりたいと疼く余計なお節介の掌を握り、山の中から一つ拾われた紙を視線で追って―ぱち、ぱちりと瞠目する瞳は言葉よりも雄弁に首を傾いだ)………?…、ええと、いいの?それならお言葉に甘えて、(というのも変な言い方なのだが、押し黙った沈黙の果てに吐かれた溜息の意味を理解する事はとても難しく、薄い紙から透けて見える解読不可能の暗号に触れてはいけない空気を感じ取り、素直に顎を引いては手元の紙束を隅のゴミ箱へと捨てた。この扱いからして機密文書でない事は確かで、けれどあの文字と彼の態度に唯事でないのを感じ取って、益々募る疑問が駄々漏れになっている表情も、一仕事終えた達成感に正される。難無く開いている戸へと視線を走らせてから、満足気に頷いて、)―うん、レール部分の螺子が緩んでたとかじゃなくて簡単に解決できてよかった、って事でひとつ。それじゃあわたしお暇するね、潮江くんはごゆっくり!(こんもりと山を作るゴミ箱の袋の口を結んで―ここまで関わったら焼却炉に持っていくのも面倒ではないので序で、だ―抱えた芳川は、今後気を付けてね、なんて手を振って軽い足取りで会計室を後にするのだろう。―焼却炉に寄って教室に戻り、早い帰りだったねと友人に声を掛けられてはじめて本来の目的を思い出して、その日の午後ずっと自己嫌悪に陥り項垂れる姿が目撃されるのは余談である。スパイノートには一言、潮江くんはそれなりに整頓上手です、ざっと見渡しただけの委員会室の雰囲気を纏めた、何の役にも立たない情報が記されたのだった―。)
(呆れた声音に、巻き込まれるのは保健委員になった時から諦めてる、と肩を竦めて。委員メンバーと行動を共にする事で逃れられない現実を寛容しているのは、今の彼に限った事ではなく友人からも度々指摘が入るのだが、然し他に対処のしようがないというのも事実。六年間ジャンケンで負け続けて所属しているとはいえ、距離を取って彼等の不運から逃げる程薄情でもないつもりだ。直後の苦い忠告を額面通り受け取ったなら、多少なりとも自覚があるが故にご尤もと眉尻を下げて頷いた後、何を閃いたかぱっと変わった顔色―そこに暗い陰がないのは前向きなのか何なのか、)ああでも、たまには厳しくいくのも手かも。注意力強化週間とか作ったりして!……ただ、うちの委員長、なにもしてなくても周りのトラブル引っ張ってくる体質なのが難点というか……ある意味奇跡の存在なんだよねえ。でもいざって時には頼りになるし、憎めないのが人徳なのかな。(周りを巻き込みつつ巻き込まれつつ、けれど笑顔は絶えず。その我らが委員長と眼前の彼の仲がそういえば睦まじいのを思い出しつつ、脳裏に過ぎったもう一つの光景に飛び出た呑気な言葉は―「潮江くんも後輩に懐かれてるよね。いいお兄ちゃんに見える…、と言うよりは、一家の大黒柱みたい?」と。嘗て目撃した、一年生の会計委員が六年い組にやって来て彼と話していた様子は芳川の目には大層親しげに映ったので、悪気なく感じた儘に言った結果がそれだ。老けていると言いたいのではなく、それ程に貫禄があるように思うと込めた意味はさて、正しく伝わるといいのだけれど―。――開いた扉の向こうで相手が安堵した事に眦を和ませつつ、眉宇の皺が増えた反応には”らしい”なあ と思ってしまうのだ。ついついその皺を伸ばしてやりたいと疼く余計なお節介の掌を握り、山の中から一つ拾われた紙を視線で追って―ぱち、ぱちりと瞠目する瞳は言葉よりも雄弁に首を傾いだ)………?…、ええと、いいの?それならお言葉に甘えて、(というのも変な言い方なのだが、押し黙った沈黙の果てに吐かれた溜息の意味を理解する事はとても難しく、薄い紙から透けて見える解読不可能の暗号に触れてはいけない空気を感じ取り、素直に顎を引いては手元の紙束を隅のゴミ箱へと捨てた。この扱いからして機密文書でない事は確かで、けれどあの文字と彼の態度に唯事でないのを感じ取って、益々募る疑問が駄々漏れになっている表情も、一仕事終えた達成感に正される。難無く開いている戸へと視線を走らせてから、満足気に頷いて、)―うん、レール部分の螺子が緩んでたとかじゃなくて簡単に解決できてよかった、って事でひとつ。それじゃあわたしお暇するね、潮江くんはごゆっくり!(こんもりと山を作るゴミ箱の袋の口を結んで―ここまで関わったら焼却炉に持っていくのも面倒ではないので序で、だ―抱えた芳川は、今後気を付けてね、なんて手を振って軽い足取りで会計室を後にするのだろう。―焼却炉に寄って教室に戻り、早い帰りだったねと友人に声を掛けられてはじめて本来の目的を思い出して、その日の午後ずっと自己嫌悪に陥り項垂れる姿が目撃されるのは余談である。スパイノートには一言、潮江くんはそれなりに整頓上手です、ざっと見渡しただけの委員会室の雰囲気を纏めた、何の役にも立たない情報が記されたのだった―。)
[No.13] 適度なリラックスは必要だがな。気を抜きすぎるのも落ち着かん… 名前:潮江文次郎
(別に嫌味を言いたい訳ではなく、困らせたい訳だってない。釈然としないままに開いた口は説教染みた言葉を止めることなく、それに対して彼女が眉を下げる姿に悪いことをした訳でもないけれど多少なりとも良心が痛むような感覚を味わいながら、彼女らが悪い訳ではないと理解する頭がようやく、苦笑めいた表情と共に「あまり無理はするなよ、」なんて労いを込めた言葉を返させて)むしろ低学年はまだそれで対策が取れるかもしれんな。…ああ…、全く嫌な奇跡もあったもんだ。まあ、あいつの場合はあれで長生きしそうではあるし、あの調子ならそこまでの心配は必要ないだろうけどなぁ…。(人徳、と彼女が評したその言葉は正に納得の一言で、恐らく彼が窮地に立たされたのなら手助けをする人間はいくらでもいるだろうし、自身もその内の一人であろうという自覚はある。今までの付き合いでの義理があるとして、それを差し引いても見捨てる気にはなれないのだから、その人柄は全く不思議なものだと感じさせられる。そんな風に思い返していればふと彼女から告げられたのは、冗談でもなく本心からそう思っているのだろう。伝われば相好を崩して、「はは、そこまで老け込んだつもりはないんだけどな、」と、こちらは冗談めかして笑い声を漏らそうか。彼女に悪気がないのは容易く見て取れる。後輩と中々距離感を掴みかねている部分もあるのだけど、他から見てそう見えるのなら潮江からしても嬉しい言葉であったから。――さすがに手間取った原因が内に在ったなんて全く想像していなかったことで、溜息に対して疑問に満ちた視線が睫を揺らせば、改めて頷きを返して、)…ああ。…何というか、…いや、大したものではないんだ。すまんな、本当に助かった。…妙なことに付き合わせてしまったな。(上手く説明出来ずに話を逸らせば、またも漏れる謝罪。眉を下げて口元に苦く笑みを乗せれば、深くは聞いてこない彼女に心中謝辞を述べながら。)―そうだな。こんな所で用具委員に借りを作らずに済んだのは助かった。それに芳川のお蔭で手早く片付いたものだ、礼を言わせてもらうぞ。(彼女の明るい対応に呼応するように普段の強気さ窺える笑みを浮かべて。―けれど彼女がゴミ袋を手にする姿を見れば、「ちょっと待て、そこまでしてもらう訳には…、」と静止の言葉紡ぎかけたのだけど、やはりこちらの言葉を待たずに彼女が歩き始めるなんて、今の潮江には即座に判断できる程彼女を知りはしていないから。遠ざかっていく姿にあいつもなかなかに人の話を聞かん奴だ、なんて面白い発見をしたという風に笑みを零しながら内心呟いて、会計室に改めて入って行こうか。滑らかに動く扉に彼女の親切心を思い返しながら、昼休み中は一仕事に集中することにして―。教室に戻ってから昼休みと違って意気消沈する彼女に気付けば、気付かれぬよう何度か視線を送る潮江の姿があったことだろうけど。抱いたのは不思議な感覚。クラスメイトに抱いた興味は、故意の出会いによるものだとも知らないままに――、)
(別に嫌味を言いたい訳ではなく、困らせたい訳だってない。釈然としないままに開いた口は説教染みた言葉を止めることなく、それに対して彼女が眉を下げる姿に悪いことをした訳でもないけれど多少なりとも良心が痛むような感覚を味わいながら、彼女らが悪い訳ではないと理解する頭がようやく、苦笑めいた表情と共に「あまり無理はするなよ、」なんて労いを込めた言葉を返させて)むしろ低学年はまだそれで対策が取れるかもしれんな。…ああ…、全く嫌な奇跡もあったもんだ。まあ、あいつの場合はあれで長生きしそうではあるし、あの調子ならそこまでの心配は必要ないだろうけどなぁ…。(人徳、と彼女が評したその言葉は正に納得の一言で、恐らく彼が窮地に立たされたのなら手助けをする人間はいくらでもいるだろうし、自身もその内の一人であろうという自覚はある。今までの付き合いでの義理があるとして、それを差し引いても見捨てる気にはなれないのだから、その人柄は全く不思議なものだと感じさせられる。そんな風に思い返していればふと彼女から告げられたのは、冗談でもなく本心からそう思っているのだろう。伝われば相好を崩して、「はは、そこまで老け込んだつもりはないんだけどな、」と、こちらは冗談めかして笑い声を漏らそうか。彼女に悪気がないのは容易く見て取れる。後輩と中々距離感を掴みかねている部分もあるのだけど、他から見てそう見えるのなら潮江からしても嬉しい言葉であったから。――さすがに手間取った原因が内に在ったなんて全く想像していなかったことで、溜息に対して疑問に満ちた視線が睫を揺らせば、改めて頷きを返して、)…ああ。…何というか、…いや、大したものではないんだ。すまんな、本当に助かった。…妙なことに付き合わせてしまったな。(上手く説明出来ずに話を逸らせば、またも漏れる謝罪。眉を下げて口元に苦く笑みを乗せれば、深くは聞いてこない彼女に心中謝辞を述べながら。)―そうだな。こんな所で用具委員に借りを作らずに済んだのは助かった。それに芳川のお蔭で手早く片付いたものだ、礼を言わせてもらうぞ。(彼女の明るい対応に呼応するように普段の強気さ窺える笑みを浮かべて。―けれど彼女がゴミ袋を手にする姿を見れば、「ちょっと待て、そこまでしてもらう訳には…、」と静止の言葉紡ぎかけたのだけど、やはりこちらの言葉を待たずに彼女が歩き始めるなんて、今の潮江には即座に判断できる程彼女を知りはしていないから。遠ざかっていく姿にあいつもなかなかに人の話を聞かん奴だ、なんて面白い発見をしたという風に笑みを零しながら内心呟いて、会計室に改めて入って行こうか。滑らかに動く扉に彼女の親切心を思い返しながら、昼休み中は一仕事に集中することにして―。教室に戻ってから昼休みと違って意気消沈する彼女に気付けば、気付かれぬよう何度か視線を送る潮江の姿があったことだろうけど。抱いたのは不思議な感覚。クラスメイトに抱いた興味は、故意の出会いによるものだとも知らないままに――、)