( 黒木庄左ヱ門
(終鈴が響いてからもクラスメイトに足を止められる事の多い彼らは、各々集まるペースが違う。それでも誰かしら訪れる頃にはそれが常と言える程に快適な空間が準備されており、くつろぎ始めるのも早いのだけれど――本日も例の如く。最初に到着した彼は、集合を待つ間に始めた本日の課題に頭を悩ませていた。)
いや、だからそれだと――、…だろ。
(後から来た今福も加えて熱心に課題をこなしている姿は、とても普段い組はは組はといがみ合っているようには映らないだろう。尤も彼ら自体の仲は悪くはないのだから、当然と言えば当然なのだろうけれど。「ややこしいなぁ…」とぼやかれれば、ほんとに、と首肯しては肩を竦める。そんな光景もありふれたもので、恐らく学園長室にいる上級生達には、彼らが暫くは質問に来ることがないという事もお見通しだろう。真面目な下級生は余り手が掛からないとも言えるけれど、だからこそ他の委員会と違い無邪気な声が響く事も少ないと言えるだろうか。とは言えそんな勉強会も、声が掛かれば中断される筈。それまでは、中睦まじく設問を掬い上げて――)

庄左ヱ門も彦四郎も良い子で手がかからなくて、少し寂しいような
( 千曲若葉
あー。…でも、ここならこうなってー…。(何故一年生の勉強に三年である千曲が普通に混ざっているのか―そんな疑問を浮かばせる者は、ここにはもういないのだろう。ついつい覗き見ては口を出したがる千曲のお節介もいけないのだろうが、段々と言いたいことが分からなくなってしまうのが千曲であったものだから。一人混乱して余計にややこしい自体を作り上げる千曲に対して庄左ヱ門と彦四郎が訂正を加えていけば「あ、解けた、」なんて聞こえてくるのもめずらしい話ではない。相変わらず周囲を良い方向へと導けているという点に於いてはさすがは学級委員長なんて見方も出来るかもしれないけど、そのやり方―肝心の千曲が追いつけていないのだから、上辺にも誤魔化しきれないのだろうか。)わー、そっかそっか。彦四郎も庄左ヱ門もえらーい。すごいね。(嬉しそうに二人の頭に手を伸ばす千曲にほんの少し照れくさそうにするも、二人とも甘んじて受け入れては、また二人で目配せをして困ったように笑うのだろうか。何が通じ合っているのかは分からないけど、仲がいいなあと嬉しくなりつつ。またすぐに勉強が再開されれば、千曲のそれが助言としてみられていないものだから、一年生から待ったが掛かることはない。自然に混ざって進めていく千曲のノートはといえば、当然三年の問題が広がっているのだけど。意外にもそちらは順調だ。数問空白はあるものの、区切りを見つければノートを閉じて―、)休憩!お茶淹れよっかー。今日は学園長からお饅頭と、さぶろー先輩からみたらし団子もらったもんね。(みんなで食べよー、と弾むように口にしつつ、人数分のお茶を準備し始めようか。「さぶろー先輩、今日は渋めですかさっぱりめですかー?」なんてお茶の好みを聞きつつ、手際よく準備を進めて――お茶が振舞われる頃には皆一段落つけて、和やかな談笑が始まるのだろう。会議の茶菓代を計上するようなこの委員、これからが委員会の始まりとも言えて―それが他愛のない話であることばかりだけど、今日の昼の放送や、方針など、真面目な話も交えつつ、気が付けばくだらない話に花が咲くこの場所に、心地よく目を細めるのか―、)

その分若葉が…、いや、皆良い子で遊び甲斐があって楽しいよ
( 鉢屋三郎
(柔らかいソファに身を沈めた鉢屋の双眸は、其れはもう退屈そうに細められていた。肘掛に付いた左腕に頬を預けて、見守る先には優秀な可愛い後輩達の姿が在る―には在るのだが、真面目な後輩達の姿に思わず嘆息してしまうのは、其れだけに鉢屋が暇を持て余しているからだ。課題の類は授業中に終わらせるし、真面目に努力している姿を見せる事を好まない鉢屋には授業終了間際に出された課題でも、此処で手を付けるという選択肢は端から除外されている。だから逆に言うなれば、此処でやる事が、無い。頭を撫でられる一年生の姿に微笑ましくならないではないが、鉢屋としては、ずっと勉強に掛かり切りで、声をかけても「後にして下さい」、すっぱり切られる現状は、面白く無い訳で。)どーん。ちゅどーん。ひゅーどろろ、どーん。(机の上に置かれた饅頭を、そんな爆撃音と共に重ねて饅頭タワーを作り上げていけば、流石の後輩も顔を上げて白んだ目を向けている。「どかーん」、掛け声と共に饅頭タワーを崩せば、無言の中にぼとぼと饅頭が転がる音が響く。―上級生で在りながら、その実鉢屋が一番の子供であるというのは、この委員会では余り隠そうとしていない。兄気質の一年生と、何だかんだでしっかり真面目な三年生に、構われたがりな五年生なんて認識をされても否定しないし、勿論いざとなれば頼りになるはずの鉢屋は、確かに先輩として認識されてはいるのだろうが、「食べ物で遊ばない!」、後輩の叱咤に間延びした返事をする位には反省も無く楽しんでいる。正に子供かと突っ込みを受けても仕方が無い様子だ。過去に何でそんなに子供みたいな事をするんですかと問われた時に、“退屈だから”と迷い無く答えた彼は矢張り構われたがり以外の何者でもないだろう。)あっさりめで。学園長達ももう直ぐ帰って来られるだろうから、その分も準備しておいてくれ。(お茶を煎れる為に席を立った後輩に答えながら、机の上を片付け始め―勿論先程自らが散らした饅頭も其々の席に配り―ノートを閉じる後輩達の姿には、「お前達は本当に真面目だなぁ…」、しみじみ呟いた言葉に「鉢屋先輩よりは」、とじとり睨まれれば、そんな言い合いの出来る関係に軽く声を上げて笑うのか。後輩が振舞うお茶に謝辞を述べて口を付ければ、指定通りの温もりにほっと胸中和ませて、後輩達の楽しげな声に耳を傾けようか。所々に茶々を入れて、話を振られれば大袈裟に返し―そう言えばと持ち出す悪戯の話、其々の反応を見せ乍も興味津々と聞いてくれるだろう後輩に、しぃ、と声を潜めて―充分に後継ぎになってくれそうだと思うのは恐らく買い被りでは無く、頼もしい後輩達に囲まれて、今日も楽しい会議が始まる。―学園長が扉を開ける頃には、わっと好奇纏った声が、笑みと共に広がるのだろう)