(校門前自販機、立ち寄るのは勿論防寒の為で) | |
梅宮千里 |
(ぐるぐる巻かれたロングマフラー、ダッフルコート、手袋、カイロ。スカートの下のジャージまでとなると梅宮の中でおしゃれよりも自己防衛意識の方が勝った事がわかるだろうか。今は耳にある、普段は通学路でのみ使用されるヘッドフォンが防寒の為冬場のみ使用されることは近しい人なら知っている。つまりこの時期梅宮の行動は基本的に寒さ対策。こうして玄関先で人を待つなんてことを想定した訳ではないが自分の格好は大正解と言える。寒いなんて口にはしないのだが脳内はその言葉一色だろう。ことの始まりを考えるのならば自分である。不用意にかけた「ろじ、送ってってあげようか」なんて言葉がいけなかったのだろう。あれよあれよと言う間になぜか自分の携帯は奪われ、その後輩によりメールは作成され送信されていたのだから。自身すらどんなメール内容なのか知らない―というのも送信ボックスを確認するのを面倒臭がったからなのだ―が、とにかく玄関前で待機との命を下され今日の委員会は解散した。妙ににやにやしている後輩等に首を傾げながらも大人しく玄関先に向かったのだ。ぼけーっと空を見ているが特に何を見ているわけでもなく、ただひたすら寒さに耐えて居たのがつい先程。合流すればヘッドフォンを取り軽く手を挙げて答えるのか。共に玄関を出れば、寒さに梅宮の元々少ない口数は減るのだろう、つくづく冬は生きるのに適してないなんて、鳥で言うのなら羽毛を逆立て暖を取っている、そんな状況である。校門の近くに丁度良く設置されている自動販売機を指せば、「少し時間良いですか」と。委員会が遅くなる度お世話になっているその自動販売機。つまるところ、暖が取れないと梅宮は帰る気にすらなれなくて―)滝君ココア飲む?コーヒーの方が良い?(紅茶もあるなぁ、なんて赤いラベルを見ながら首を傾げる。自分は基本的に適当に、だが彼は好みがあるかもしれない。つき合わせてしまった礼位にはなるだろうか、500円玉を投入してから自分より背の高い彼を仰ぎ見るのか) |
たまに菓子なども売っていますよね、自動販売機。チョコとか? | |
平滝夜叉丸 |
(一人で勝手に舞い上がり。―本人にその自覚は全くないのだが、周りから見れば抱くのはそんな感想。今日も今日とてとっぷり日がくれへとへとになるまで委員会活動を行っていたけれど、着替えて髪の毛を整えるころにはいつも以上にはきはきとした滝夜叉丸がいて。本人が気づいているかは別として、最近話すようになったその先輩の姿を校内で見かければ、滝夜叉丸は彼女が自分を見ているだろうと勝手に決め付け格好良いと思うポーズを取ってみたり髪をかきあげてみたり、ちらりと流し目をしてみたりと無意識に――ある意味意識的に、梅宮千里という人物に自分をアピールしていた。だから自分のことをよく知る後輩の仕業だと気づくわけもなく、彼女からのメールに口元のにやけは止まらないのだ。質感の良い気に入りのグレーのダッフルをきっちりと着込めば糸くずがついていないかなどをしっかりと鏡で確認し、用を足すわけでもなく身だしなみ確認のためだけに訪れた男子便所から飛び出し待ち合わせ場所へ。玄関先で彼女の姿を見つけたならば早足で、ぱさりとマフラーを“かっこよく”首元へ巻きつけつつ歩み寄ろう。並んで校門を出るまでの僅かな道のりですら小さな興奮と口元のにやけ、そわそわした気持ちが治まらない。考えてもみれば、誰かとこうして並んで門をくぐるなんて滅多にないこと。しかもその相手は先輩の女子生徒、自分に気があるかもしれない――と、滝夜叉丸の思い込んでいる、彼女なのだから。テンションの上昇からかいつも以上に饒舌な唇は、彼女の誘いにも「もちろん!」と必要以上に元気良く答えた。)あ、…ちょっと待ってくださいよ、全く千里さんったら素早いなぁ。私と一緒にいたい気持ちはわかりますが少し待ってくださいよ。(でれ、と笑って鞄を漁る。身だしなみよろしくきちんと整理されたそこからは簡単に探し物は見つかり、取り出した黒い皮の財布をぱちりと音を立て開ける。金色の硬貨―五百円玉を取り出すと、手袋に包まれた彼女の手を掴みそれを握らせて。もし彼女が受け取ってくれずともそのコートのポケットへ放り込んでしまうのだ。)ここはおれの奢りでどうでしょう?千里さんに温もりを与えるのはこの滝夜叉丸…と言うことも、少し遠回りではありますができますしねぇなぁんてはっはっは!…んー…じゃあ、私はレモンティーで。…よっと、千里さんはココアですか?(彼女が硬貨を投入していたことでぼんやりと光っていたボタンの中から黄色いパッケージを選んで人差し指を伸ばす。ごとりと転がってきた音に腰を屈めながら彼女に尋ねたのは、最初に彼女の口から飛び出した飲料の名がココアだったから。返答を待ちつつも熱めの缶を手に取ればまずはそれで暖を取ってくれとそのまま手渡し、続けて返って来たつり銭へと手を伸ばそう。) |
漫画には驚いたなぁ…中在家先輩が見たら怒りそうと思った。 | |
梅宮千里 |
(巷では彼の脳内置換が恐ろしいと実しやかに囁かれているが、実の所それは梅宮にも当てはまるのだ。話を端折り、面倒臭がって口を開かない梅宮は、つまり脳内解釈に訂正を入れてくれる人が居ないのだ。察した友人に突っ込まれる事は多々あれど、思考の殆どは梅宮ナイズされたまま。つまりストーリーテラーの才能はあるのだろう。最近良く目の合う後輩のことを言われれば、自信満々に「懐いてくれたんだよ」なんて答える場面が幾度かあるのがその証拠か。最早自分の任務という事はすっかり忘れて世間話に勤しむ日々が続いている。と言っても指摘されるまでは最近良く話す事や、目が合うなんて事に気付かなかったのだが、そういわれれば最近良く見かける。目が合ったな、と確信した時だけ手を振ってみたりもしているのだが―今日も彼はファンサービスの為に頑張っているのだな、と言うのが梅宮の評価だ。尤も回りに同意する人は居ないのだが。後日ファンクラブに呼び出されたりとかありませんように、なんて祈って見たりもした。恐らくそういう類のものには年功序列も無いのだろうから下級生に囲まれるなんて事もありえるだろう。惜しくも梅宮は何時も通り考えの八割を口にしない女であったから、それを聞く人も居なければ、漫画の読みすぎだと咎める人も、そもそもにしてファンクラブの存在は今の所認知されていない事を教えてくれただろう。勘違いしたままの梅宮は現在彼と並んで自販機の前に居た訳であるが。)……(手に握らされた金色のコインに、分かり辛いだろうが小さく眉間に皺を寄せる。礼代わりのものを逆に驕ってもらってどうするのか、とか先輩としての矜持とか色々考えることはあり、思わず寄った皺だったのだが、元来感情の変化は出にくい性質だから気付かれないか、)…よし、じゃあ先輩が滝君の空腹を満たしてあげよう(この先にあるコンビニの存在を思い出せば、この場は彼の言葉に甘えるのだろう。ココアか、と聞かれればどうして分かったのだろうなんて心底不思議に思いながらこくんと一つ頷いて肯定を示す。冬はココアに限る、と彼に言った覚えは無いのだが――超能力者説を打ち立てながら、渡されたレモンティーに「滝君は優しいねぇ」なんてぽつりと零すのか) |
漫画!?漫画が、こう、…取り出し口に落ちてくるのですか!? | |
平滝夜叉丸 |
(彼女が手を振ってくれる度に弾む胸は、今もわくわくと賑わっていた。だからこそ、もちろん元から自身は輝いていると思っているけれど、更に格好良く輝いた姿で彼女の傍にいたかった。そうすればきっともっと、彼女は自分に対して様々な反応を見せてくれるはず。いつも以上に格好の良い男でいたかった滝夜叉丸は、男として彼女に奢らせるわけにはいかないと硬貨をその手に握らせたのだ―手袋ごしではあったけれど、その手に触れてしまった!なんて内心小さくにやけながら。それに対する彼女の表情の微妙な変化には、その表情まで覗き込みはしなかった滝夜叉丸には気づけなかったけれど、返って来た返答で悟るのは『先輩』という言葉を耳にしたから。)……。そうですか。よしいいでしょう、現在自動販売機前では男として千里さんにココアを奢り、次は後輩として千里さんに空腹を満たしてもらう、と!そういうわけですね!いやぁ千里さんも可愛らしい人だ、そんなにしてまで私と一緒の時間を作りたいなんてねぇ!(唇から零れる笑い声を隠すこともせずに、つり銭から硬貨を数枚選んで再び投入する。ちらりと彼女を振り返り渡したレモンティーに「お嫌いでなければ、一口どうぞ」と付け足したならば再び前を向いて、ココアのボタンへと人差し指を伸ばす。――と。聞こえてきた彼女の呟きに、その手が一瞬、止まった。いつもより僅か力の篭った二重瞼はぱっちりとその瞳を丸く描き、乾いた空気に何度か大きく瞬きを。いつも外見や学問などの実力面において自画自賛している滝夜叉丸ではあったが、その言葉を向けられたのは初めてだった。――優しい、なんて。)……そ、そうですか!?な、はは、あははそりゃそうですよ!なんたって男の中の男、滝夜叉丸ですから!女性への優しさも忘れません!…はは、(缶の落ちるゴトリという音ではっと気づき、紡ぎだす唇はいつもの通り。しかし彼女にとっては些細ななんでもない一言だとしても、にやける頬をおさえることができないこの男にとっては大きな言葉だった。すぐに何もなかったかのようにいつものように胸を張ったが、いつもの力強さはどこか恥ずかしい気持ちからふにゃりとした頬の緩みに変わっていることだろう。慣れないテンションのまま勢い余って掴んだココアの缶は酷く熱く感じて、「あちぃ!」なんて声を上げて一度手放してしまったけれど、持ち前の反射神経でそれを再び掴めば誤魔化すように笑って彼女に差し出そうか。) |
うん。結構な高さから、UFOキャッチャーみたいにどさっと。 | |
梅宮千里 |
(寒いと動く気になれないというのは、夏において逆の事が言えるが冬は夏より酷い。夏は木陰に入ればほんの少しでも涼しい気はするが、冬は暖まれる場所なんて人工物以外にありえないのだから。着込むにも限度がある。その限度ギリギリまで着込み、暖を確保しつつ帰るのが日課だった。その暖を提供して貰えるのは正直願っても無い事である。しかし、それが礼のつもりだったのだから話は変わってくるのだ。基本的に自分がして貰って嬉しい事は相手もそうだろうなんて自分の定規で物事を測っていたのが常だが、どうも勝手が違うらしいと此処に来てまた一つ学んで。上手い言葉を探せずに、なんと言うべきなのか必死に脳内辞書を捲っていたのだが―彼の言葉にとりあえず意図は伝わったのだろうか、些か安堵した表情を浮かべて)…うん、まぁ、そんな感じ(普段梅宮の使うそれで良いよ、という適当な肯定の言葉とは違い、少し考えた後、断定的な肯定の言葉を返し。「ありがとうございます、」と付け足すようにぽつりと呟いたのは、意を汲み取って貰えて嬉しかったからだろう。気を遣ってもらって悪いとは思うし、全て人任せにするのはどうかと思いはしたのだが、結局の所彼に一任するのが一番良いのだろうと自己完結して。一口、と言われれば一瞬の間を置いた後、「したら間接ちゅーだねぇ」なんて呑気に言って見るのか。開けたら直ぐに温くなるのを知っているから、彼とて暖は必要だろうと未開封のまま両手で暫く握っているのか。ごとんと重そうな音が響けば、今日も自動販売機は営業頑張ってるな、なんて目を細めつつ)そーですよ。うん、滝君は優しいと思う。そういう配慮が出来る人は…うん、なんていうのかわかんないけど、凄いって言うか偉い、とはまた違うんだけど…うん、あれだ、素晴らしい?(委員会を除けばクラスメート以外の異性と関わる機会など殆ど皆無である。そして基本的に各々同学年に対しては遠慮も容赦が無い。委員長不在の中の最上級生である事から女扱いもされることなく、力仕事だろうとなんだろうと仕事ならば梅宮だって戦力扱いである。そんな状況であったからか、女性に優しく、なんて先程の様に気を遣われたのなら兎も角気遣われたのは本当に久しぶりだ。思った事はそのまま出てしまう性分だから、そのまま声にしてしまったのだが―素手でココアの缶を掴んだ彼の声に驚くのも束の間、その熱さは身を持って知っている梅宮だから、わたわたとココアを受け取りコートのポケットに突っ込めば、彼のようにすばやくとは行かずとも可及的速やかに手袋を片一方外して)えっと、うん、ちょっと失礼(言うが否や恐らく寒さのせい以外で赤くなっただろう指先に自身の冷えた指先を押し当てて。傍から見れば梅宮が真顔で彼の手を両手で挟んでいるという前後の脈絡の見えない光景であるが、恐らく軽いものだろうが火傷したら直ぐに冷やせ、の言葉を自分なりに一生懸命実行しているのだろう) |
それは本が傷みますね…私が本を出した際には避けてもらわないと | |
平滝夜叉丸 |
(曖昧ではあったが少しでも肯定の意を含んでいれば滝夜叉丸にとってそれはイエスだ。続いて聞こえてきた礼の言葉に小さく首を傾げるその表情も、相も変わらずでれりと緩んでいる。自動販売機へと向き直った滝夜叉丸は小さく鼻歌まで奏で出すほど機嫌よく指を動かして、――そして背後からの呟きに、がばっと勢い良く振り返る。)かっ!!か、か、かんせつちゅー!?ちゅ、…ちゅ、ちゅう!ちゅうですか!あはっ!ええと、ちゅうですねぇいやまーその、ち、…ちっち、ち、ちさとさんが嫌でなけれっ、ば?おれはもー全然、ぜんっぜん構いませんよか、かんせつちゅーくらいね!この滝夜叉丸と間接ちゅーができるなんてもう千里さんは幸せ者の中の幸せ者、ベストオブ幸せ者ですよはは、なはははは!(かしかしと後頭部の髪の毛をなでつけながら視線は彼女を通り越し空へと向かい、落ち着かない心を誤魔化すように笑い声をあげる。酷く動揺している様子は説明せずともわかるだろう、なんだかんだ言って滝夜叉丸という男は恋愛事に慣れていないのだ。間接ちゅー。間接ちゅー。彼女の言ったその単語がくるりくるりと頭の中を回る。どこか照れくさいような気持ちが交じり中途半端につりあがる頬―筋肉が痛い。それなのに、―彼女は更に、滝夜叉丸が喜ぶことを言ってくれるから。優しい。それを肯定して更に、付け加えてくれる言葉はいつも滝夜叉丸が自称しているものだけれど、彼女の口から生み出されるとまた違った意味を持つように思えた。)はっ、はは、まぁ元から私が素晴らしいということはわかっていましたが…こうして改めて千里さんに言っていただけると嬉しいものですねぇ。あぁもちろん、千里さんも素晴らしい女性だということはこの滝夜叉丸、身をもって実感しておりますゆえ!素晴らしいコンビですね、お、お似合いのふたりだなぁ!なぁんて!(でれりとにやけた表情はもう彼女の方へは向いていないけれど、その声色から伺うことができるだろう。浮かれているからこそ、気も緩むものだ。左の素手で熱い缶を、しかもぎゅっと強く握ってしまい思わず上がってしまった声。大したことはないものだったのだ、火傷と呼ばれるほど酷いものではなかった。むしろそれよりも、――伸びてきた彼女の手のひらの温度とその光景に、ココアより熱くなってしまったのではというほど燃えるように温度の上がった頬。見開いた瞳は確かに、彼女の手のひらが自分の指を包む様子を映し出している―)な、ど、て、ちょ、ち、ち、…さ、さん!千里さん!あの、て、手が、おれ、お…私はへいきですからその、大丈夫で…あぁでも離してはいけません!やっぱり私も大丈夫じゃあありませんでした!(彼女が自分の指を心配してこの行動に出たのだろうということは認識できたが、だからといって驚きも動揺も収まらない。彼女の冷たい指先は体温の高い滝夜叉丸にとっては気持ちよいものであったし、それ以上に彼女に触れてもらうことが酷く嬉しくて。だから、なるべくずっとこのままでありたいと、零れる言葉は無茶苦茶なものになってしまい、)…あぁでも、このままではココアが飲めませんよね。もう大丈夫ですから、離してくださって結構です。ほら、毎日体育委員会で鍛えているこの肉体はちょっとやそっとじゃ悲鳴を上げるものではないのですよ!だからこそ、この美しさそして煌びやかな輝きを保っていられるというわけですね!(肩を竦めて笑って見せてから、ゆったりとした動作で彼女の手から離れるように左手を自分の元へと動かした。それからすぐに話題を変えようと、「次の目的地はコンビニですか?」と首を傾げてみせるのだ。) |
嗚呼、自伝?ハードカバーなら平気じゃないかなぁ | |
梅宮千里 |
(本人としてはなんとなく言ってみただけで深い意味の無かった言葉。勢い良く振り替えられれば吃驚して目を瞬かせるのか。何か悪い事を言っただろうか。脳を通さず口に出した為自身の言葉の重みと言うのは大して分かっていないよう。しかし盛大に狼狽る彼の姿を見れば、どうやらまずい事を言ったらしいと悟るのか、)いや、なんていうか、場違いでごめんなさい…?ちょっと思っただけだったんだけど…ああうん、それは確かに三国一の幸せ者かも知れないけど、裏庭に呼び出されるのは怖いから遠慮しておく(からかった訳でもなんでもないのだが、彼が純情である事を今知ってなんとなく申し訳なくなってしまって。彼の狼狽っぷりをみればどれ程爆弾発言だったのか理解して、言わなければ良かったと後悔しても後の祭りなのである。折角勧められても残念ながらアイドルと間接キスなんて、この状況だけでも呼び出し覚悟で臨んでいるのにそれこそリンチでは済まないだろう。学年一のアイドルと言うのだから恐らくそれ位のことはあるのだろうと、漫画知識ではあるがファンクラブの不文律は恐らく此処にも存在するのだろうと丁寧に断りを入れるのか。)しかも体育委員でしょ?それだけで凄いと常々思ってるもん。…ええと、ありがとう?でも滝君成績優秀って言うし私じゃ釣り合い取れないと思うけどなぁ(思い出すのは何時も数学教師の怒鳴り声。持つべきものはい組の友達だなんてテスト前は常々思っている。数学に至っては英字と数字を混ぜる理由がわからないなんて言っている梅宮、得意科目以外は平均ギリギリ。苦手科目に関しては単位を落とさないという非常に低い目標を持っている位なのだから。その苦手な数字の再試の存在を思い出せば乾いた笑いを零すのか。――自身が冷え性だからかつい先程熱い缶を握ったからか、彼の本来の体温は知らないがやけに熱く感じる。火傷までは行かずとも暫く冷たいものを握っていた方が良いと言うのは自身の体験から。じーっと彼の手を凝視していたのだが、自分を呼ぶ声に気付けば顔を上げて。離せと言う意味に聞こえた言葉に一度手を離すもその直ぐ後に離すなと言われればもう一度彼の手を握って。大丈夫じゃないと言うなら大丈夫じゃないのだろう。どうしたものかと思案しつつ、)…やっぱり金属の方が冷たいからそっちのが良いよね。生憎今日は金属という金属は持ってないんだけど…(電子辞書なら冷たいかもしれない、その答えを算出する前に彼が平気だと言えば、彼が手を引くのにあわせ自分もゆっくり手を離して)ん、それなら良かった。体育…(浮かぶ表情は納得しても良いのか同情するべきなのか図りかねているもので。眉を寄せた後に逡巡してから「頑張ってね」と無難な言葉を選ぶのか。曖昧に濁す事に関してはいらない定評もある梅宮、その部分のボキャブラリーだけは無駄に豊富なのだろう。次の目的地を聞かれれば軽く頷いて、「こっちのが近道、」と小道を指して。特に何もないようであればその近道を突き進むのだろう) |
もちろん、自伝には千里さんのこともばっちり綴りますからね! | |
平滝夜叉丸 |
(むしろ場違いは滝夜叉丸であったのだろう、彼女はただ冗談で言っただけかもしれないし、きっと深い意味はなかったのだろうに、当の滝夜叉丸といえばこの動揺っぷりだ。しかしマイナスな感情ではないことは確か、鼻の下を伸ばしたデレりとした表情の通りむしろ嬉しいほどであったから、謝罪を述べてくる彼女には慌てて首と手をぶんぶんと振るのだけれど、)いやいやいやいやいや、場違いでも何でもありませんよ、私も少し、少し驚いてしまって申し訳ありませんでした。でしょうそうでしょう三国一の幸せ者まさにそのとおおり!私も全く気にしませんし?さぁどうぞ召し上が……あれ?…いいんですか…?裏庭…?(遠慮しておく。彼女のその言葉に、わかりやすいほどにしぼんだ風船のような残念そうな表情が浮かぶ。彼女が自分に対して申し訳なさを感じていたことなど微塵も知らないで、彼女との『間接チュー』が成し遂げられなかった事実に少々凹む―のだがそこは滝夜叉丸、すぐにいつもの調子を取り戻すのか。)そう、しかも体育委員の滝夜叉丸…むちゃくちゃな先輩方の中努力し、諦めず頑張っている姿はまるで長編感動物語、一つの伝説が生まれるでしょうね。千里さんは火薬委員会でしたっけ?そんなことでそんなことで良いん会代表と言われていますがしかし、千里さんが所属するというだけで輝いて思えるのは何故でしょう…それは、貴女が輝いているからに他なりません!なぁんてね!ふははは!そんな輝く千里さんと煌く滝夜叉丸、どこが釣り合っていないというのでしょうか?その姿はさながらアダムとイブ、カヴァラドッシとトスカ、もしくはロミオとジュリエット…なぁんてねぇ!(にまにまと頬を緩めながらくるくるとポーズを変えさらさらといつものごとく調子よろしく語り出し―しかし例に挙げた男女の姿がどれも悲劇の結末を迎えた者たちだったことについては気づいていないようだが―満足そうに頷けば、ねぇ?と相手に問いかけて。―そんな“お似合い”の彼女の手に触れうろたえる滝夜叉丸は、悲劇のヒーローには相応しいとは言い難い。自分で言ったものの実際彼女の手が離れていけば胸いっぱいの寂しさ、名残惜しさが襲うのだが。)いえ、金属より千里さんの手の方が冷たくて柔らかくて気持ちが良い……な、なぁんて、ね!ほらでもそのぉ…千里さん、人肌恋しいとか、人の手の温もりとか、そういうのあるじゃないですか!(自然と出てしまった考えなしの言葉にさすがの滝夜叉丸もまずいと思ったのだろう、フォローするように慌てて綴るのはどこか中途半端なもので。彼女から“間接チュー”の施されることのないレモンティーを受け取れば近道だという小道を二人並んで歩いていこう。ブルタブを開け道中缶に口をつけながら土を踏んでは蹴って、踏んでは蹴って。少しだけ口数が少なくなったのは、どうにもトクトク心臓がうるさいから。コンビニが見えてくれば、「あそこですね」と指差して―) |
へ?…いや、滝君の素晴らしい所を十二分に語るべきだと思うよ? | |
梅宮千里 |
(明日には血祭りか。何て楽しくない祭りだろうと現実逃避を始めながら、女の子は怖いなんてめっそりするのか。普段ならば気分転換になるだろうけど、生憎ポケットの中のココアは熱くてまだ飲めない。踏んだり蹴ったりといおうか、勝手に横転した感が否めないのだがしょぼくれてしまうのだろう。―尤も、失態を直ぐに忘れる調子の良いは組脳を有していた梅宮だから、次の瞬間には飴食べる?なんてポケットをごそごそし始めるのか)うん、あれだよ、ファンクラブの呼び出しと言う奴だよ。私は生憎属してないから不文律とやらも知らないけど、あるんでしょ?そういうの(しかしそうは言ってもこう、明らかに残念そうな顔をされれば困惑する。何に対して残念がっているのか梅宮には分からないので自分の想像力を働かせるしかないのか。そこで素直に聞かないのはなんとなく聞けない雰囲気だと梅宮は解釈したからか。暫くして出した結論は、もしかしてココアも飲みたかったから交換したかったのではないかという事。ぽふんと手を叩けば「言ってくれれば良いのに」と自分のココアを彼に差し出して。先程自分が断った意味が無くなる事に、梅宮は恐らく気付いていなくて―)確かにむちゃくちゃだよねぇ…何で七松先輩はあんな元気なんだろうとよく思うよ。…うん?あぁ、うん、火薬火薬。そんなことで委員会って言われても、それが良いから火薬に入ったからねぇ、私。…あはは、ありがとー。でも実際火薬は輝いてると思うよ。斉藤さん金髪だし(話を聞いているのか居ないのか、半分くらいずれた返答を返しながらのんびりと歩き続ける。次々に上がった名前に、首を傾げるのはその物語の主軸くらいは知っていたから。確か後者二つは女のせいで―厳密にはそうではなくとも―男が死ぬ話ではなかったか。聖書のそれで言えばイブがアダムに無理やりりんごを食べさせたという説もある位である。つまり自分は悪女という事だろうか―知らない間にまたやってしまったらしい。この間漸く委員会の後輩と打ち解けたばかりだというのに、二の轍を踏むのが早すぎるのではないだろうか。「酷い先輩でごめんなさい」、とぐすっと涙ぐみながら謝って。―今度からは頑張ります、なんて一人意気込むのか。頑張るなんて無縁の生活をしていた梅宮だけど、一人そんな決心を固め。実際如何頑張るのかは後で考えるのだが。)冬は人恋しくなるからねぇ、私も小さい頃は良く手を繋いで歩いてもらったなぁ(一年生なら兎も角、二年生の後輩に否定された経歴を持つ梅宮だから、男の子は嫌がるんだろうと『手を繋いで帰ろう』、なんて誘いはしなかったのだが。昼寝中は大体黒豆―と彼女が勝手に呼んでいる猫が一緒だが、居ない日はとても寂しい。小さい頃と言いはしても結局何時まで経っても冬は寂しくなるものだろうか。静かなのがいけない気がするから耳あてよりヘッドフォンを選んでつけているのだが、今日はしていないから普段より寒いはずなのに特にそう感じないのは矢張り隣に人が居るからか、それとも彼だからか―そんな風に考える理由はまだ分からないのだけど。コンビニを指されれば頷いて、そういえば今更ながらではあるのだが―)あのさ滝君、凄く今更で恐縮なんだけど、家ってどっち? |
語りますよ?しかし千里さんも語らなければ伝説は完結しません! | |
平滝夜叉丸 |
(彼女が脳内で繰り広げる予想なんて知りもせず、ファンクラブの呼び出しなんてものも知らず――そもそも存在せず。とにかく滝夜叉丸は、彼女とそれが出来なかったことを心の底から残念に思っていた。何故?問われれば、きょとんとした顔をしてから首を傾げることだろう。何せ、彼女は自分に気があるのだと思い込んでいるものだから、それもまた滝夜叉丸のネジをひとつ抜いてしまっているのだ。)ファンクラブの呼び出し…ふむ、そんな可能性があるのですか。大丈夫ですよ、何があっても私が千里さんに文句は言わせませんからね!私が言えばファンクラブの連中も…誰が入会しているのかはわかりませんが、文句は言えないでしょう!(ふふんと口元を綻ばせて。ファンクラブの存在は当然在るものだと思っているから確認したわけでもないのに胸を張る。―彼女の中で何がどうなってそのココアが差し出されたのかはわからなかったが、驚いたように二重瞼を見開けば、「ありがとうございます!」受け取ってにへらとにやけるのだ。またしても滝夜叉丸の中では都合の良いように解釈され―そう、彼女は本当は“間接チュー”をしたかったけれど、自分から口をつけるのが恥ずかしかったのだ、なんて。ぷしゅ、と音を鳴らして一口いただけば、甘い香りが口の中いっぱいに広がる。ぷはりと吐いた息はいつも以上に熱く思えて。ココアの缶は、そのまま彼女へと手渡した。)あの人はいろんな意味で計り知れませんからね…この滝夜叉丸の能力を駆使しても、落ち着かせるのは無理でしょう。…確かにタカ丸さんは金髪ですがしかし、この滝夜叉丸の目にはタカ丸さんなんかよりも美しい輝きが映し出されます。今、目の前に。…もちろんそれは、千里さん!貴女ですよ!私の輝きと共鳴するに相応しいその煌き…(結局はそっちへと持っていきたいようで、適当にあしらわれてもしばらく語りは止まらない。しかし何故だろうか彼女から謝罪の言葉が、しかも涙声で紡がれたなら、ぎょっとしてあわあわと両手を振るのか。彼女の脳内が辿った順路など知る由もなく、「何故です!?」そんな声を上げながら。)手を、繋いでねぇ…(レモンティーへと口をつけながら、彼女の言葉を繰り返す。珍しく黙り込んで気持ちを向ける先は彼女のその、手のひらだ。先ほどまで自身の手を握ってくれていた、冷たい手のひら。じっと見つめて、ぼうっとぼやけるほど何やら考えていると見えてきたコンビニにはたと我に返る。指を指せば返ってきたのは―)…私の家ですか?そうですねぇ、あっちでもありこっちでもありそっちでもありどっちでもある、といいますか。千里さんの家はどちらで?ふふ、今日の帰宅コースは千里さんの家への道のりを含んでおりますので、言うなれば千里さんの家への方角が私の家の方向とも言えますかね!ふっふっふ…わざわざ私に送って欲しいだなんて、やはり可愛らしいですねぇ千里さん!(後輩が送ってきたとも知らずに、彼女が送ってきたものだと思い込んだ文面――“暗い夜道は怖いので、家まで送ってくれませんか?”ハートマークまでついていた。いかにも彼女というよりはあの後輩がやりそうだと普通に考えればわかるものなのだが、生憎滝夜叉丸の『普通』は普通とは言いがたいもので。にこにこと笑みを浮かべながら、コンビニの明かりはもうすぐそこに見えてくるのか。自動ドアが開けばコンビニ独自の空気が出迎えてくれるのか。) |
…あ、滝夜叉丸レジェンドは簡単に終わっちゃ駄目だと思う、よ? | |
梅宮千里 |
(自身の中で自己完結した事柄に、彼もつっこみはしなかったので矢張り想像通りだったのだろうと確信を深めて。寒いから、暑いからと怠ける理由はいくつでも思いつく梅宮の、その怠け癖による暴走を止めるものは誰も居ないのならばそのまま邁進するのだろう。思考回路で言えば彼女も三年生の某二人組に負けないくらいの方向音痴であるのだから―)あるんじゃないかなぁと思ったんだけど……え、あ、…ありがとう(なんとなく気恥ずかしくなって照れ隠しにか視線を逸らして頬をかく。話をするときは人の目を見て、なんて教えはこの際横に投げ捨てても仕方ないだろう。なんてまた自己完結して。一度彼の手に渡り、再び戻ってきたココアに口をつけ―る直前に何故自分が彼の申し出を断ったのかを思い出し。あ、なんて小さく間抜けな声を上げるのだが、暫く考え込んだ後彼の言葉を信じても大丈夫だろうとココアを一口飲むのだろう。「滝君信じたからね!」なんて声をかけつつ、毒を食らわば皿までと言う言葉もあるし、全て今更であると開き直るのか。)いけいけどんどーんって時折校庭から聞こえてくるあれね、まさか人の声だとは思わなかったよ…。斉藤さん凄いよねぇ、髪の毛すっごいさらっさらだもん。久々知は久々知で睫毛ばっさばさだしさぁ…羨ましいと言うかアレが似合うのが凄いと言うか。…うん?滝君が輝いてるのは知ってるよ?アレだけ目立つ体育の中でも凄い目立ってると思うし(こくりと頷きながら、聞こえた部分には返答を返す。人の話を聞かない所は実は似ているなんて指摘する人は居ないだろうか、梅宮の思考も直ぐに別の方に移り変わるのだろう。驚いたような声が直ぐ横からあがれば、皆まで言わずとも分かっているとでも―結局梅宮は人の話を聞かないところがあって―いう様に拳を握って。「頑張るからね!」なんて宣言してみせるのか。それはもう、何時もの無気力さからは想定出来ない様な気合と共に。)伊助とかならまだ許してくれるんだけどねぇ…一年生がせいぜいかなぁ(委員会の関わりがない学年とは顔見知り程度。必然的に基準は委員会の後輩が殆どだが、火薬委員の場合二年生の彼から既に手を繋いで、なんて無理な話である。実際今日だって送ろうと言ったら逆に送って貰えと話を持っていかれた位なのだし―どうかした?なんてぼーっとしていた彼に声をかけるのは、自分ならいざ知らず彼がぼんやりしている姿を見る事はまれであるからか)え?それってどういう…え、あ、あー…うん、ごめんちょっと失礼(彼の言い様からどうやら自分は送球に送信ボックスをチェックした方が良いらしい事を悟ると断りを入れポケットから携帯を取り出す。白いスライド式のそれは同じ委員の委員長代理に非常に褒められたそれであるが、送信メールの内容に比べれば些事である。送信ボックスを開いてメールに目を通して―女の自分が打つより可愛らしいメールに愕然とするのだろう。一緒に帰るということだけでも申し訳なかったのにさらに送らせる事になるとは――今度からメールはちゃんと自分で打とう。後輩に任せてたら危ないと言うのもあるが、)えぇと、うん、お世話になります。私の家あっちなんだけど、方向逆なら気にしないで大丈夫だからね?道、一応明るい、し(自動ドアを潜りながら自宅の方向を告げ、気にかかっていた事も加えればなるべく遅くならないようにさっさと買い物を済ませるのか。「今度、メールしても良いですか」なんてコンビニを出る前に聞いてみるのは果たして本当に後輩による些細な悪戯が原因か、はたまた違う理由が浮かんだのか。二つの理由のうちのどちらの理由からだったのかは、今は気付かなかった事にするのだろう) |
あぁ、要するに!千里さんの素晴しさは私が独り占めすべきだと! | |
平滝夜叉丸 |
(礼の言葉に満足そうな笑みを浮かべる滝夜叉丸。彼女を守るのは自分――自分で紡いだ言葉にうっとりしてしまうのは、その言葉の美しさはもちろん、その事実がとても素敵なことに思うから。照れ隠しなんだろうな。逸らされた視線に対した自惚れた納得は、珍しくも外れてはいなかったようだけれど。可愛らしい人だとほんわり胸が温かくなるのはもう何度目のことだろうか。だからこそ、ついに訪れた『間接ちゅー』の瞬間、自分が口をつけるわけでもないのに少しだけ硬く身構えた滝夜叉丸がいて、彼女にそれを気づかれたかどうかは定かではないけれど。ついに『間接ちゅー』をしてしまった…!そんな喜びにも似た高校生らしい初心な感情に頬が緩みそうになっていたとき、かけられた言葉にはびくりと肩を震わせて「はい!」とよくわかりもせずに返事を返してしまうのだ。いかんいかん、首をぷるぷる振って今更ではあるが余裕を装おう。)むしろあの掛け声、最初は人の声に思えても一緒に走って何度も聞いていると逆に獣の声に聞こえてくるほどです…はぁ。確かにタカ丸さんのヘアケアも素晴らしいものですよねぇ、まぁしかし?学園内サラサラストレートヘアーランキング第二位のこの滝夜叉丸には及びませんがねえおほほ、おーっほっほっほっほ!もちろん千里さんの髪もすばらし…あれ、あぁ、えぇまぁ私は確かに輝いておりますが千里さ……え、あ、そうですか、体育の中でも煌き輝き目立っておりますか!ふふふ、解っていたことですが千里さんに言っていただけると嬉しいものですねぇ!そんな滝夜叉丸ですが、…千里さんの隣にいるときが、最も輝いている瞬間、なのですよ。…なぁんてねぇわはははは!(彼女の煌きをいかに素晴らしく思っているか、それを伝えたかったはずなのだが、上手く彼女に伝わっていないようだということは滝夜叉丸にもわかった。彼女が褒めてくれたことは素直に嬉しかったから顔を綻ばせて喜んで、しかしめげずに再び彼女へのアピールを。彼女の隣にいる自分は輝く、つまり素晴らしい自分と上手く共鳴する彼女もまた素晴らしいのだと、そう言いたいわけなのだけれど。――コンビニへの道すがら、彼女からのメールを思い出し一人にやけて――彼女がそのメールを今初めて認識したということも知らずに。だから、買い物を済ませた後かけられた質問の意図など滝夜叉丸にはちっとも予想できずに、―とはいえ彼女からメールをもらえるという事実が嬉しいあまりに予想しようとすら思わなかったが、)もちろんです!千里さんからのメールならばこの滝夜叉丸、全力で、いつも以上に全力で返信させていただきますしね!是非お送りください、あぁ楽しみだなぁ。(にこにこ、わくわく、でれでれ。この三つの効果音が滝夜叉丸を埋め尽くしている、ほかほかと手元の肉まんから上がる湯気のように。後輩としてご馳走になった礼として「ありがとうございますね、」肉まんの入ったコンビニ袋を軽く持ち上げて示して。それから、―コンビニから彼女の家への道すがら。僅か黙り込んだ後に、ぎゅっと大きく瞬きをし息を吸い込んだ。「ち、さとさ、…」―少しだけ、閊えてしまった言葉。いつもあれだけ喋っているというのに、緊張して声が出ないなんて初めてのことだった。それでも、コンビニへ入る前からずっと考えていたことで。落としていた視線を彼女へと上げると、ごほん、ひとつ咳払いをして、)手を繋いで帰りませんか?冷たいよりは、温かいほうが良いでしょう?私の手、温かいですから。…ほら、なんたってこの滝夜叉丸の手ですからねぇ!繋げるチャンスなんて滅多にないことですし?今繋いでおくべきですよ!まぁおれとしては千里さんとなら幾らでも………その、……嫌でなければ、ですけれども、ね。(自信満々の自分に、臆病な何かが腰を据えていた。初めての感覚。今までずっと、彼女が自分に好意を寄せていて、だから自分は満更でもないし相手をしてやろう――なんて、そんな考えでいたけれど。自分から彼女とあれがしたい、これがしたいと望んでいる事実に、漸く気づきだしたのだ。そして、もしかすると彼女が自分に寄せていると思い込んでいたそれは、違うものなのかもしれない。一度そう考えると怖くて不安で――いつものような調子で誤魔化しきることもできずに、月明かりの下、少しだけ照れくさそうに笑って手を差し出すのだった。――願わくば。彼女の家までのこの道のり、片手に温もりを感じて、帰れれば良い。) |
へ!?や、私じゃなくて滝夜叉丸レジェンドの話だよ! | |
梅宮千里 |
(五年もこの学園に居れば逞しく―と書いて図太くと読む―なるのが常である。寧ろ何時の世も言うように女性は強しを体現するようなこの学園、男子をからかって遊ぶ女子生徒を見るのは日常茶飯である。何にしろ自分で頑張れ、と自己責任を貫く気風が何処かあって。特に上級生にでもなれば年を重ね経験をつみ出来る事の範囲が広がり、かつ下級生の面倒を見るのだから余計にそれは強くなるだろう。男女差別が無いというとそうだが、女性扱いをするなんてことがそもそも滅多に見られない学校である。守るだのなんだの、そんな言葉とは基本的に皆無縁だから、例に漏れず梅宮もそんな言葉を聞くのは初めてであった。そして言った、いわば保身の為の信じるからねなんて言葉に返って来た勢いの良い肯定に、自分で言ったくせに目を丸くすれば珍しく、分かり易いほどの表情の変化を見せるのだろう。普段より五割り増しの微笑と分かる表情で)獣…ううん、肯定していいのか否定した方が良いのか。いけどーん!とギンギーン!は聞くだけでなんか疲れると言うか…。あー、ねぇ、そういえば前もそんな話したねぇ。にゃんこと言えば最近は昼寝メイトが居て…(彼と初めてまともに会話を交わしたときも確かそんな話をしていなかっただろうか。メモを取ったからか残念な記憶力を有する梅宮もそれはちゃんと覚えていて。懐かしい、なんて頷いてみるが諸所聞こえる自分の名前に、漸く話の内容が自分だと言う事に気付いたのか聞き流すのをやめて今度はちゃんと聞き始めれば、高笑いと共に聞こえた―どうやら褒め言葉であるそれには「ありがとう?」と疑問符をつけながらも礼を言うのか。暫くして漸く理解した梅宮はマフラーを口元まで引き上げて何でも無い風を装うのだろう。――果たして後輩が送ったと言う事を言うべきか否か。迷い癖なんて無かった筈だが此処まで喜ばれると真実を言うのも気が引ける。彼の言葉は確かに嬉しいが其れを素直に喜べない理由が梅宮にはあって。此処まで喜ばれるとは思っていなかったし、あんなメールが行っているとも思わなかった。怠慢はいけない、なんて日頃いわれている言葉が身に染みた瞬間であろう。訂正を入れるのはためらわれる。かといって彼に訂正を入れないことは結果としてだましている事に鳴るのだから梅宮としても居心地が悪いのだ。)今度はちゃんと、私が打つから。…あのね、あれ、実は三郎次が打ったんだよ。かくかくしかじかという訳で。うん、でもね、なんていうか…送ってもらえるのは、嬉しい、デス(迷惑かけてごめんなさいと言う意味もあったのだ、と彼の持ったコンビニの袋に対して目線を彷徨わせてから、しかし結局嘘は嫌だと本当の事を言うのだろう。そして恐らく翌日には友人に漏らすのだ。「自分がわからん」なんて今まで言った事も無いような言葉を。しばし考えながら道を行く。寒いなぁと沈黙に流れる思考を打ち切った呼ばれた名前と咳払いに、幾分高いところにある彼の顔を見上げると)…あー、なんか気遣って貰っちゃってごめんねぇ?ありがと、お言葉に甘えさせて貰います(こく、と頷けば手袋を外しポケットに突っ込み、差し出された手を取って。「嫌な訳ないじゃん、こっちこそ手ぇ冷たくてごめんね」なんて謝りながらじんわり伝わる体温に目を細めるのか。普段は寒いだの眠いだの早く家に帰る事ばかりを考える夜道であるが、不思議と普段より軽装なのに暖かいのは矢張り隣に彼が居るからだろう。先程の推測が確信に変わり、そして――任務の存在を思い出して、明日は委員長代理に八つ当たりをする事を心に決める。何であんなの請け負ったんだろう、なんて今更過ぎる言葉を溜息に変えながら、梅宮にしては饒舌に帰路を進むのか) |
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