丘の上の桜の木の下

【ペア花見サンプル】(桜舞う道を二人で踏みしめながら――) 
小松田秀作(満開の桜の隙間から淡い香りを夜風が運んでくる。昼間から皆騒いで腹も落ち着いてきた頃、彼女を誘ったのは気紛れとも言えただろうか。「ねぇねぇ梢子ちゃん、あっち行ってみようよ」そんな風に桜並木の方まで離れて来れば、一面の桃色を見上げて。)
ほぁ〜、すごい。満開だねぇ〜。
(ぽかーっと口を開けて間の抜けた声を向ければ、舞い散る花びらが鼻先を擽って――)
ふぇ、…ふぇ……、ぶえっくしゅん!!ふぁ、花びらもすごいねぇ、雪みたい。
…へへ、何だか梢子ちゃんとこうして桜を見てるのって、不思議な感じがするなぁ。
(彼がこんな時に格好が付かない男である事は今更だけれど、鼻を啜りながら彼女に向ける緩い笑みは幸せそうなもので、「一緒に見れて嬉しいなぁ」と小さく付け足す言葉は、本心からだと解り易いくらいのものだったろうか――、)

やっぱり夜はすごく雰囲気変わりますね!じーんてしちゃいます!
百枝梢子(普段はあまり交流のない他学年の生徒などとも気軽に声を掛け合える雰囲気はこういった行事ならでは。人並みに飲み食いを楽しんで話に花を咲かせていた際に掛けられた声には、あの日以来の彼女の中での心境の変化から一瞬戸惑う様子を覗かせながらも、周りの声に推されて結局はこうして夜桜の下、ワンピースのシースルーの袖と裾を香風にはためかせる事となっていて。頭の上に広がる桃色だとか、遠くにちらつく街の灯りだとかに、案外と穏やかな雰囲気を感じていたのに。)
…くしゃみする時くらいはぁ、手で口おさえて下さいよお!っんもぉ〜…。
(彼の行動一つで一気に日常に戻ってきてしまった気がして、不満げに頬を膨らませ、)
…………何…、ですかあ、やぶからぼーにぃ…。
(隣で笑う彼の言葉は本心だと言う事が分かるからこそ恥ずかしく、一瞬言葉に詰まりながら溜息交じりに告げ。ずんずんずん、と数歩は歩幅を広く、少し前を歩くように距離をとっていたのだけれど―、―数歩もすれば、勢い良く真っ直ぐに突き出される、手。添えられるのは素直でない言葉―、)
…暗いと足元見えないですしー、小松田さん、すぐ転ぶからあ……手。繋いであげてもいーですよ。

【横レスサンプル】そぉりゃあ桜もボク達を祝福しているからね!
田村三木ヱ門(あ。と漏れそうになった声に口を塞いだのは、見かけた相手が相手だからだろうか。委員会で随分見慣れた小柄な少女と、隣に並ぶのは入門票を書く度に見かけた事務員。意外な組み合わせだと感じたのは、あの計画が実行された初めの頃だったけれど、もう二人が並ぶ様子も見慣れた物へと変わっていて、特に何も思う所はなかったけれど――予算会議が終わった今になってみれば、文句ばかりの彼女があの男に未だに付き合っているのは意外であったし、それが、彼女から手を差し伸べている姿であれば尚更――姿を隠すように木の陰に身を寄せれば、胸に抱くのは子離れの瞬間に立ち会う親心のような、複雑な感情だっただろうか。素直に祝福してやったとしても怒られる気はしながら、首に巻いたストールを弄り口元に笑みを乗せれば――“三木ヱ門?”と不思議そうに声をかけてくるのは共に居た同級生で。)
――何でもない。…もう少し、向こうへ行かないか。折角二人で楽しんでるのに、ここじゃ騒がしい奴に見つかりそうだ。
(後輩の姿に微笑ましくなりながら、一番に報告しろと言っていた同級生の姿を頭の中から追いやって――今はまだ、秘密にしていたい二人だけの関係を隠すつもりがあるのかないのか、少女と手を繋いで並木道を歩く彼は随分機嫌が良さそうだっただろう。怒られても、祝いの花でも贈ってやるかなんて考えは、日頃苦労させられている分の、ほんの少しの仕返しも籠めて――)


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