Present for 作法委員会
(毎年恒例になっているこの行事。年により種類が変わらず毎年同じものが袋の中から顔を出すため一年以外のメンバーにはその中身は予想できるだろうか。作るレシピを変えない分腕も上がり、作り手は味にそれなりの自信があるようだが――ハート型の型抜きで抜かれたその生地は、程よく焼けた狐色。ごつごつと混ざっているチョコチップの存在のため元来のレシピよりも砂糖を少なめに調理したそのクッキーがごそりと何枚も詰められた紙袋には、茶色と深い赤の二つのリボンが揺れるシールが飾られていて。それで貼り付けられたメモには、ボールペンでさらりと書かれたであろう文字が並ぶ―)

「いつもお世話になっています。紅茶と一緒に召し上がっていただければ。 吉野」

年に一度、作法の贅沢なお茶菓子、だな。//立花仙蔵
(賑やかな二人の少女が運んでくれた袋の中を確認すれば、立花の口から微笑みが落ちる。見慣れたハート型チョコチップクッキーは、メモを確認せずとも送り主が明らかになっているようなものだ、なんと言っても毎年同じ贈り物なのだから。慣れと上達度を考慮すればそれも巧い方法だと思うし、年に一度の行事なのだから舌が飽きることもなく。律儀で真面目な彼女らしい筆跡に目を細めて、―ふわり、いざなう香り。一枚食べてしまおうかとも思ったけれど、当日の委員会でささやかな礼として―勿論正式なお返しは来月14日にするのだが―自ら紅茶を振る舞って頂くのもまた毎年のことなので、今暫しお預けとしておこう。感謝は顔を合わせて開口一番に、「美味しい」の一言は恐らく、一枚目のクッキーを食してから―)

卒業してもちゃんと渡しに来て下さいね。1年だけで良いので。//綾部喜八郎
(―いくつか受け取ったプレゼントのうち1つ。受け取ったその場で、何かを探すように、ひとつひとつ順番に差出人を追い始め―そして、シンプルに紙袋に張り付けられたメモの文字と、そして何よりも名前を確認すれば、その瞬間に、丁寧さの欠片もなくびりびりと開ける。予想通り、中から出て来た、毎年恒例のチョコチップクッキー。間違いない、そう確信すれば、それをひょいとそのまんま口に放り込んだ。名前を確認してから一瞬とも言えるその素早さに呆気に取られてた後輩二人は、復活すればすぐに、立花先輩は綾部先輩と違ってわんやかんややんややんや―と、煩く口を出してきたのだけれど、ひらりひらりと手を振れば難なくそれを往なす。)、いいの。だって確実に美味しいのだから、迷わないのは当然でしょう。(―なんて。理にかなっている様で実際そうでもないそんな言葉と共に、二人を追い払えば、もぐもぐもぐもぐと遠慮なくクッキーを食べ続ける。入学した時から続くこのクッキーは、綾部にとってはバレンタインと言えば、とまで言える存在にまでなりつつある。恐らく本日、顔を合わせた第一声は、きっとこれも毎年恒例に告げているだろう、「美味しかったです。もう少しください。」なんていう、遠慮の欠片もない言葉だろうか―。)