Present for 鉢屋三郎
(手のひらサイズの紙の袋に詰められたのは、五枚ほどのハート型をしたチョコチップクッキー。手作りらしい色をしたその生地の甘さは若干控えめで、さっくりとしたバタークッキーにゆったりと広がるチョコレートの味。特別甘いものが苦手でなければ不味いということはないだろう、調理者はクッキー作りに成功したと言えるだろうか。茶色と深い赤の紙製リボンできゅっと締められた袋の口の下には、袋に備え付けられていた茶色のシールで貼られたメモがひとつ。ボールペンで綴られた文章に、差出人の名はなかったが―)
「寄り道のお礼。」
もっと盛大に返してくれて良かったのに。来月、楽しみにしてれば//鉢屋三郎
(他の贈り物と共に届けられた其れを、手の平に収めてゆったりと瞬きを繰り返す。差出人の名は無くとも、たった六文字の言葉で導かれる人物は一人しか居ないのだ。丸でぼーっとしているだけにも見える鉢屋の様子に、「食わねーなら寄越せ!」、羨ましがる友人の声がチョークスリーパーと共に襲い掛かって来れば、疎ましげに払い乍、微かに語気が強くなる、)…っば、此れは……!(滑らせかけた言葉に耳敏く友人が動きを止めれば、ぎゅっと鼻筋に皺濃く刻んで、睨む。友人らの前では微々たる変化乍素直に為ってしまう自らも自らだけれど、自らに対して察するのが上手い友人らの事だから、受ける視線から目を逸らしつつ、「良かったじゃない」、穏やかに笑みを向けられれば、袋の口を、そろり開け乍、)……別に、今は特別腹が減っているだけだよ(と、溜め息混じりに減らず口を続けるも、一つ手に取って齧ってみたクッキーから、ふわりと鼻腔を擽る甘い香りは素直に味の良さを認めさせる物だったろう。素直ではない贈り物に対して、受け取り主も相当に素直ではなかったけれど、其の様子に笑みを浮かべる友人達を視界に入れないようにして、遠回りの感想を、小さく呟いた―)…腹が減っていると何でも美味いな。