Present for 会計委員会各位
(カットされた長方形のチョコレートケーキは手作りらしい。同サイズの長方形のボール紙で出来た箱は、英字が踊るシックなデザインのもの。それを透明のラッピング袋に紙パッキンと共に包んだなら、口を真っ赤なサテンリボンで結んで――毎年恒例でもある、差出人の料理好きな母親からの差し入れは、バレンタインに限られていないことから一年生にも馴染みがあっただろうか。甘いカカオの香りが濃厚なしっとりとした舌触りのケーキ、味は恐らく慣れたものだろうから、保障済みと言えただろう。包みの中に共に添えられたカードには、癖の強い、堂々とした文字が並んでいる―、)
会計委員の皆へ
いつもお疲れ様。
近頃根を詰めて作業をすることが多くなっているが、気を抜かずにいくように。
今後も他の委員会に負けぬように、しっかりついてこいよ。
潮江文次郎
ありがとうございますー。やっぱり格別おいしそーですー。//潮江文次郎
(初めて委員長の母が作ってくれたお菓子を見た時の皆の反応は何だかんだで忘れられない。だが定期的に差し入れて貰えるお菓子は毎度美味しく、だから今では寧ろその差し入れを楽しみにしている後輩の方が多いのでは無いだろうか。夙川も洩れずにその一人であり。だから、こうして届けられたバレンタインデープレゼントには心が躍って。―開けば中はどうやらチョコレートケーキの様だ。ふんわりと香る甘い匂いに頬を緩めながら、然し添えられたカードに並ぶ文字は自然と背筋が伸びてしまう様な文字列だ。潮江先輩らしいと言えばらしく、甘いチョコレートケーキとはちぐはぐな雰囲気。文字を追いながら「はーい。」なんて伸びた返事をしてしまうのはついついの癖だ。味の保証は完璧なそのケーキを口にするのは恐らく委員会の時になるだろうから、直截の感想はその時に、作り手である彼の母親に伝言して貰えるよう頼むのだろうか。食べ物を美味しく食べる事に関しては過ぎる程の表現力を持つ夙川の喜びが何処ほど迄彼女に伝わるかは、彼次第で―)