Present for 潮江文次郎
(薄茶、薄桃、薄緑。ころんとした一口サイズの、ココア、紅茶、抹茶のマカロン――成功作の中から更に選りすぐった焼き菓子はブラックコーヒーにも合うように甘さ控えめに仕上がり、いつでも簡単につまめる仕様になっていて、つやのある表面の色は均等に配置するよう揃って白のまあるい箱に収められている。その箱はベビーピンクとパールイエローのペーパーで包まれており、縛り口ではふわふわと揺れる朱色のカーリングリボンが華を添えて。引っ張ればすぐにほどけて箱が現れるラッピングは、出来るだけ包装を解く手間を省いた形にしたつもりだ。―包装と箱の蓋との間には、金の装飾に縁取られた白いカード一枚。現在の自分達の距離感が名前を記す勇気までくれず、そこにはこうして、桃色の文字が少しまるみを帯びて並んでいた。)

「頑張りやさんの会計委員長へ。
 疲れが和らぐ魔法がかかってます。よければ、休憩のお供にどうぞ。」

いい休憩時間を過ごさせてもらったよ。…美味かった。有難う。//潮江文次郎
(淡い包みが届けられたのは午前中のことであったけど、朱色のカーリングリボンをほどいたのは、昼休み、会計室で一人になってからだった。薄い色合いのペーパーが可愛らしさを醸し出して送り主を想像させるけど、確証がある訳ではなくて。箱に蓋をしたカードを掬い上げれば、その暖かさが滲む文字に相好を崩して、指先で文字を辿る。差出人の名などなくとも充分に彼女らしさの滲む言葉の並びに、箱を開ける前から既に、胸に生じた和らぎは口元をらしくもなく緩めさせていたから。)有難う…、(小さく零した呟きは思っていた以上に優しく吐息のように柔らかに落ちて、恥ずかしがり屋の魔法使いに甘い魔法を掛けられる。そっと開いた箱の中に規則的に並ぶマカロンを見れば、先程準備したコーヒーと共に、早速頂戴しようかと。――まさか包みやマカロンにまで気遣いが施されているとは思わなかったけど、当然のように受け入れてしまうそんな彼女の優しさは、知らぬ間に身体に浸透して、心臓までも到達するのか。もう既に、この頃には彼女へ抱く感情も、影を濃くしていたから。薄茶のマカロンを齧れば、そっと目元を和らげて―料理好きの母のお蔭で菓子類も食べ慣れていたけど、一際特別な味わいを舌に伝えてくれる気が、したのは、欲目と呼べるものだっただろうか。魔法の効果は絶大で、こんな姿は後輩達には見せられないなとぼんやり思って苦笑しつつ、)…何だろうな、(思わず零れた囁きは、熱を含んで、自身の感情を思い知るには充分で。どうしてこんなにも焦がれるのか―解けないそれはもどかしく、けれどどうしようもない程に愛しく。静かに静かに、降り積もっていく。募っていく。いつか、彼女に届くまで、穏やかに、穏やかに、おだやかに――、)