Present for 平滝夜叉丸
(可愛らしいピンクの包装紙はハート模様。白いレースのリボンがきつめにその包み紙の口をしばった後かた結びされている。包装紙を開けば、アイボリーの手の平サイズの箱が1つ、緩衝材のペーパーパッキンに埋もれる様に置かれ、更に箱を開けば、3つ並びが2段の計6つのチョコレートが並んでいる。ハート型が2つ、星型が2つ、ダイヤモンド型が2つと、バリュエーションに富んだチョコレートの入った箱の横には、シンプルな白のメモが一枚―)
平滝夜叉丸様へ
あなたの事なので恐らく、
やになる程チョコを受け取っているとは思いますが、
べつ腹で受けとって頂ければ嬉しいです。
きれいに出来たものを選んだつもりです。
はずかしながらこう言った日に、
ちょこれーとを送るのは初めてで、
ろまんちっくの欠片も無い演出なのですけれど、
うけ取って下さるだけでも嬉しいです。
よろしくおねがいします。
りんご味のチョコレートが、当たりです。
かしこ。
(―所々少し無理やりな文章ではあったかもしれない。くるんくるんと少し右肩上がりの丸文字は細いグレーのペンで綴られており、どこか神経質な雰囲気を醸し出しているかも知れない。少なくともどちらかと言えば女性的な文字だっただろうか。―しかし残念ながら。6つあるチョコレートのうち、1つはワサビ。1つはミントガム。1つは99%カカオ。1つはカレー粉。1つは枝豆。―唯一まともなのはリンゴの欠片が入ったチョコレートただ1つであると言う、見事な罰ゲームチョコレートのラインナップである。綴られた言葉に何一つ嘘は無く、手作りのそのチョコレートはチョコレートの部分だけを食べれば味は悪くないと言うのだから余計に性質が悪かっただろうか。さて毎年手を変え策を変え、宛先である彼をこの日にからかう差出人の今年の趣向は、彼の気に召すだろうか―)
…カレー粉は何の材料と間違えたのだろうか…//平滝夜叉丸
(不思議そうな不満げな顔をして預けておいた箱を渡してくれた後輩二人は、滝夜叉丸が何か言い出す前にさっさと行ってしまった。きっと皆出し惜しみしているのだと思いながら大きな箱に入った二つの包みのうちのひとつを手に取れば、可愛らしい包装に顔がでれりと緩む。わくわくしながら包装紙を開き飛び出してきた箱を鼻歌交じりに開けたなら、三種類の形に模られたチョコレートとその香りに更に頬が緩んだ。そして極めつけは添えられたメモ。うんうんと頷きながら何度も読んで、)この子はよくわかっているなぁ…!(そうだろ?隣の席のクラスメイトに話しかけたりもしながら自分の世界に浸りつつ、後でゆっくり味わおうとそっと箱を閉じて袋にしまった。――放課後るんるん気分で箱から一つ選んで口の中へ放り投げたなら、一気にその表情は崩れるだろう。山葵味の甘いようで我慢できないほどの辛さに水道へと向かい水を飲んで、材料を間違えたのだろう、手作りなのだろうと思い込み差出人が可愛らしいとさえ思ってしまう滝夜叉丸。ひとつひとつの味に苦しみながらも、完食してしまうのだった。)