( 吉野作蔵
(職員玄関を潜れば事務窓口が待ち構えている。ガラス張りの小さな小窓から来訪者の姿があれば直ぐに気付ける様に席を近くに取っているけれど、流石に隔たりがあれば、作業をしていて気付かない事も少なくはない。暖房の効いた室内でペンの走る音だけが静かに響いていた――)

寒い中、いつもお仕事お疲れ様です。
( 山田利吉
(コンコン、と小窓を叩けば中の事務管理主任は気が付いてくれるだろう。目が合えば愛想良く笑みを浮かべて会釈して、小窓が開かれれば改めて、「コンニチハ」と挨拶を告げて。)
いえ、今日は父に用があるのではなくて、他の先生方にお聞きしたい事がありまして。
(基本的には人当たりもいい彼。談笑は和やかに続けられるのだろう。今は――)

どうしたんですかぁ?改まっちゃって嫌だなぁ利吉さん。
( 小松田秀作
(――少し席を立っていたのは清掃の仕事があったからだ。冷えた手で赤くなった鼻の頭を擦りながら事務室の方へと戻って来れば、そこには見知った姿があって)
あ、利吉さぁん! こんにちはー。入門票にサインください!
(真っ先にそれを告げるのはいい笑顔で。相手の表情が引き攣ったのを見逃さない事はないが、彼の所為だとは露とも思わず、にこにこ笑みを浮かべて不機嫌そうな来校者が立ち去るまでは隣に並んで――)